- 第498回 -  筆者 中村 達


『危ない!感じ方の違い?』

 片づけをしていたら、アーミーナイフの取説が出てきた。時々オイルをさしてなどと書いてあったので、机の引き出しに入れていたナイフを取り出して、久しぶりにメンテナンスをしてみた。
 アウトドアズの展示会や外国の専門店で購入したり、ネットで手に入れたものもある。カラフルできれいなので、ついつい買ってしまい、数えてみたら10本以上はあった。お土産にいただいたものもある。ほとんどが、スイス製の小型アーミーナイフだ。
 山では必需品で、なければ困ることが多い。中でもワインの栓抜きは重宝する。溝が掘ってありコルク栓が容易に抜けるのがいい。
たくさん持ってはいるものの、結局は、30年以上も前に購入したものを、今でも愛用している。考えてみれば、私の場合はこれで十分な筈である。

 海外へ出かける場合も必ず持参している。ただ、飛行機の搭乗口ではセキュリティチェックに引っ掛かるので、受託手荷物のトランクやバッグに入れておく必要がある。小さなアーミーナイフもダメで、一度没収されそうになった経験がある。

 数年前、スイスのツェルマットのナイフ専門店へ出かけた。店内に入ると様々なアーミーナイフが並べてあった。日本国内では手に入らないようなものが数多くあった。登山やハイキングに、ちょうどいいのがいっぱい揃っていた。
 ふと見ると5歳ぐらいと、その弟だろうか3歳ほどの男の子が、ナイフの刃を出して触っていた。アーミーナイフは折りたたみ式が多く、取扱いに注意しないと指を傷つけてしまうこともある。驚いて「危ない!子どもは触ってはいけない」と声を出してしまった。すると、近くでナイフを物色していた父親が、怪訝な顔をして「心配しなくても大丈夫!」と言った。余計なお節介、と言わんばかりだった。

 日本人の私とはナイフの捉え方や“安全”の考え方が異なるように思えた。
いま、子どもたちには刃物は、あまり扱わさせないようにしていると聞く。生活の中で、刃物を使うシーンは極端に少なくなっている、鉛筆は削り器があるし、消費材の大半は、ハサミなしで、手でカットできるようになっている。包丁も使う場面が少なくなった。
 だから、私の場合もナイフが活躍することは少なくなっている。山でも果物の皮をむいたり、サラミソーセージを切ったりする程度になった。最も多用しているのはワインの栓抜きだろうか。
 キャンプシーンが多くなる夏休みを前に、ふと思い出した一コマである。
   
(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター副センター長、特定非営利活動法人日本ロングトレイル協会代表理事、全国「山の日」運営委員、公益財団法人日本山岳ガイド協会特別委員、国際自然環境アウトドア専門学校顧問など。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員