![]() ![]() ![]() - 第496回 - 筆者 中村 達
『天気図』 高校や大学の山岳部員だった頃は、天気図を描くのはごく当たり前のことだった。天気図は2種類あって、まずラジオからの気象情報を左の空欄に書きとめ、あとで白地図にプロットして天気図を描き上げていくための用紙。この用紙だと、比較的簡単で、すぐに書きとめることができる。これは学校の授業でも習った。 ![]() また、等圧線や前線の位置情報は、気象通報の最後の方で流されるのだが、広い太平洋やシベリア、あるいは中国の西方にまで及ぶと冷や汗がでた。自宅でラジオを聞きながら、何度も練習を繰り返したことを思い出す。 最後に作成してから数十年も経つが、身体にしみこんでいるので、少し練習すれば、いまでも描けるような気がする。 この気象通報は、当時、早朝の5時30分、昼の12時20分、そして夜の23時からそれぞれ15分間放送された。早朝と言っても、山ではすでに起きていて、朝食の準備を横目で見ながら天気図を書いた。昼の放送は行動中でもあり、沈殿(悪天などで行動しないこと)でもしていない限り、聞くことは少なかった。※ 23時からの放送が、一番詳しかったように思うが、すでに寝入っている時間なので、担当になると、一旦起きて、描き込む作業がつらかった。 しかし、天気図が描けるからと言っても、天気予報が的中するわけではない。そのあたりは、やはり素人だった。ただ、なんとなく気圧配置が理解できて、お天気の概況は把握できたように思う。 いまは、気象衛星などの高度な観測システムと予報体制があり、解析された気象情報は、精度が高くなった。さらに通信技術の発達で、受信可能なエリアが広がり、日本アルプスの稜線でもスマホなどで、リアルタイムのお天気情報が受信できるようになった。 山小屋ではネットで受信した天気図が掲示されているのを、よく見かける。だから、わざわざ天気図を作って、そこから明日の天気を予想することは、ほとんどなくなったのかも知れない。 電波状況が悪い山中で、ラジオを耳に押し付けて聞き入り、天気図を描いた時代は、遠い昔になった。 ただ、TVに映し出される天気図を見て、今日、どうして雨が降ったのか、風が吹いたのか、晴れがいつごろまで続くのか、その理由がなんとなく理解できるのは、山で天気図を描いていたおかげかも知れない。 ※NHKラジオの気象通報は、2014年4月から、16時から16時20分までの一回のみとなった。 (次回へつづく)
■バックナンバー ■筆者紹介 中村 達(なかむら とおる) 京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー 安藤百福センター副センター長、特定非営利活動法人日本ロングトレイル協会代表理事、全国「山の日」運営委員、公益財団法人日本山岳ガイド協会特別委員、国際自然環境アウトドア専門学校顧問など。 生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員 |