- 第493回 -  筆者 中村 達


『自転車と道のこと』

 自転車にもいい季節になってきた。五月の風を受けながら新緑の中、ペダルを踏むのは何とも気持ちがいい。
 近頃、休日ともなると、サイクリングを楽しむ人たちを、たくさん見かける。年齢層は若者から中高年者まで、かなり幅広い。カラフルな自転車用のウェアを着て、ヘルメットを被っているので、一見しただけでは判別できないが、よく見ると年配者も多いのが最近の傾向だろうか。
 最も顕著なのは、ヘルメットの着用が多くなったことだろう。さすがにママチャリでは少ないが、サイクリングやMTBでは被っている人が目にとまる。

 20年ほど前のお話だが、米国東海岸ニューハンプシャー州の山岳リゾート地に滞在していたことがあった。街の郊外を周るのに、泊まっていたペンションオーナーのMTBを借りた。出かけようとすると、オーナーが「ヘルメットを被って行きなさい。警察に見つかると罰金だぞ」と、アドバイスをしてくれた。この地域で自転車に乗るには、ヘルメット着用が義務付けられていることを初めて知った。
 国内では法律的な縛りはないが、ヘルメット姿が増えたのはいいことだと思う。

 私の家から最寄りの駅までは、12㎞ほどある。住宅街から田園地帯を通り、森の中のワインディングロードを走り抜けると、びわ湖が見えてくる。びわ湖に向かって長い坂を下り市街地に入れば、駅はすぐだ。この間、駅近くの駐車場まで、信号は4つしかない。自動車にとっては走りやすい道なので、結構なスピードで走る車も見かける。

 数年前までは、ときどきリュックに着替えを入れて、自転車でこの道を走っていた。が、自転車が安心して走れる箇所が少ない。自転車専用道がないので、スピードを出して走る車に、常に注意しなければならないのだ。何度かヒヤッとしたことがあって、それ以来、自転車の利用は止めた。この道を高校生たちは、いまもなお、通学に利用しているのだ。この道しかないから仕方がないのだろうが、何とかならないものかと思う。
 反対に、車を運転していると、交通ルールを守らない、あるいは知らない自転車が多いことにも気づく。

 昨年の夏、イタリアのドロミテ地方に出かけた。山岳地帯ではオフ、オンロードに限らず、自転車が非常に多かった。さすが自転車王国だと思った。マナーやルールも確立しているように見えたし、自転車優先が、車のドライバーに浸透しているようだった。
 日本もそうなれば、インバウンドでくる外国人たちの利便性も、向上するのではと思う。
高齢社会にも、健康のために自転車はいい。安価で手軽なフィットネスとして最適だと思う。
 ふと我に帰って、自分のMTBが錆びだらけで、放りっぱなしにしていることに気がついた。梅雨までには、久しぶりに整備でもしようと思う。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター副センター長、特定非営利活動法人日本ロングトレイル協会代表理事、全国「山の日」運営委員、公益財団法人日本山岳ガイド協会特別委員、国際自然環境アウトドア専門学校顧問など。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員