- 第479回 -  筆者 中村 達


『新しい年へ』

 今年一番の思い出は、ドロミテ山群のハイキングだろう。イタリアはフランスからアルプスを越えてクールマイユールという街へ、スパゲッティを食べに出かけたことがあるだけで、今回が実質的にはじめてだった。
 ドロミテ山群は石灰岩質の岩頭が山塊をなして、天に突き上げている。一つの山塊を歩くだけでも、丸一日はかかる距離がある。
 コルチナという地名は、1956年猪谷千春さんがコルチナダンペッツォ冬季オリンピックの回転で、第2位に入ったことで知られている。そのコルチナへ半月ほど出かけてきた。コルチナはイタリアのリゾート地で、ウィンターシーズンの人気が高い。

 とはいえ、夏も世界各地からリゾート客が来ている。街ではイタリア語、フランス語、ドイツ語、それに英語が飛び交って国際色豊かだ。ただ、ドロミテ滞在中は日本人を一人も見かけなかったのが不思議だった。

 ドロミテ山群のトレイルもよく整備され、非常に歩きやすい。道標もしっかりしていてデザインも統一されている。岩が露出しているところでは、ペンキで白・赤がペイントされていてわかりやすい。これはフランスやスイスと同じように統一されているようだ。

 夏休みに入ったばかりなのだろうか、小中学生が先生や親たちに連れられて、トレイルを歩いていた。どのトレイルでも学校単位でハイキングをしている姿があった。歩くということが、体験活動として奨励されているようだ。今年の夏は特別に暑いらしく、トレイルでは直射日光が容赦なく降り注いだ。しかし、子どもたちは帽子を被るでもなく、紫外線除けに長そでのシャツを着るわけでもなく、Tシャツに半パンツというのが大半だった。どうやら人種的に紫外線に強いらしい、と何かの本で読んだ。日本なら熱中症対策とか、紫外線で肌を焼くのは良くない、と全員が帽子、長そで着用になるのだろう。
 歩いて刻々と変化する地形、植生、気温、天候などを、肌で感じ取る。山頂で下界を俯瞰することも大切なことだ。達成感とともに自然の素晴らしさを、しっかり刻み込ませることが必要だと思う。
 そんな自然体験活動が広がる新年であることを期待したい。

(次回へつづく)


■バックナンバー

■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。