- 第468回 -  筆者 中村 達


『夏の夜のワンディリング』

 山での地理は強い方だと思っている。山で道に迷った経験はあまりない。なんとなく方向がわかる。しかし、都会では体内磁石が狂いだし、方向感覚がおかしくなってしまうことがある。

 お盆にTVに出演するため東京に出かけた。夜の9時が約束の時間だ。
 東京駅から山手線に乗り有楽町駅で地下鉄に乗り換えるつもりが、どうやら出口を間違ってしまった。イメージと実際が違うと、体内磁石がさらにおかしくなって、方向がわからなくなってしまうのだ。
 日比谷線に乗りかえるつもりが、有楽町線の方に出てしまったようだ。わからないので、通行人に聞いてみた。「あちらの方」と教えられたので、その方向に歩いていくと地下鉄のマークがあった、良かったと思って掲示板をよく見ると、路線が違っていた。
 困って、今度は若いカップルに尋ねた。「そこをまわったところ」と言われたので、その通り歩いていくと、地下鉄の入り口があった。しかし、そこはまたまた有楽町線の入り口だった。

 いったんJRの有楽町駅に戻るのが賢明だと、歩きはじめてしばらく行くと、サラリーマン風の男性が歩いてきた。聞いてみた。すると「日比谷線は方向が違います。向こうの方です」と指さした。「少しありますよ」と親切に教えてくれた。
 ここでJRの出口を最初に間違ったことを、ようやく気がついた。念のため、JR有楽町駅の改札口で聞いた。「日比谷線はどこですか」。すると、向こうですと指さして教えてくれた。信号を渡ってその方向に行くと、大勢の人だかりができていた。デモがあったらしい。その群衆で地下鉄の入り口が見えにくくなっていた。

 またまた迷ったが、ようやくのことで日比谷線に乗ることができ目的駅に着いた。あらかじめ教えてもらっていた改札を出て、地上に立った。
駅前の広場では夏祭りをしていた。群集で道路標示や案内が見えない。時刻は8時40分。暗くてビルも判然としなかった。整理員らしき人を見つけて、目的のビルをたずねた。「そのビルでしたら、あのビルの裏です。」
 教えてもらった通り歩いて行ったが、お盆休みでいつもなら明るいビルも、窓の明かりは消えて闇の中だった。看板もないし目印も見つけることができない。困っていると、そこに一人の男性が歩いてきた。意を決してたずねると、次の角を左に回ると、正面に見えるビルがそうですと教えてくれた。そして、親切に「少しわかりにくいので案内しましょう」と、ビルの入り口が見えるところまで案内してくれた。

 目的地に着くと、全身汗だくだった。この時、はっと気が付いた。スマホのGPS機能を使って地図を見ればよかったと・・・。それにしても道を教えてくれた人たちは、みんな親切だった。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。