- 第455回 -  筆者 中村 達


『キャンプイベントで行方不明で大騒ぎ』

 ずいぶん昔のことだが、キャンプイベントで私の子どもが行方不明になり、大騒ぎになった。そのキャンプイベントは自動車メーカーが主催したもので、当時、4WD車とオートキャンプがブームで、このキャンプイベントも応募者が殺到して、すぐに満員になったようだ。

 バブル経済が崩壊しつつある頃で、レジャーは「安・近・短」というフレーズで表現されていた。それにはオートキャンプなるものが、選択肢のひとつだった。RV車でオートキャンプ場に向かうというのが、カッコよく見えたように思う。実際にはキャンプ場で焼き肉やバーベキューを楽しむのがほとんどだったが、キャンプ場に向かう父親たちは、荒野に出かけるような気分だったのかもしれない。

※画像はイメージです
 イベント会場が近づくにつれ、キャンプ用具を満載したワゴン車やクロカンタイプのRV車が増えてきて、入口のゲートでは長い車列ができた。
会場では車の横に大きなテントが何百張と立てられ、焼肉の匂いが漂う中、ステージは懐かしいフォークソングで大いに盛りあがっていた。

 ステージイベントが終わって、テントで一休みしてふと気がつくと、私の2歳になる娘がいない。周囲を探してみても見当たらない。声を出して呼んでみても返事がない。スキー場に設えられた特設のキャンプ場なのでかなり広く、参加者も数千人と多い。同じような車とテントが、会場いっぱいに広がっているので、小さな子どもだと自分のテントを見つけるのが難しいだろう。迷子もたくさんでいた。
 時刻は夜の9時を過ぎて、周辺の森や山は暗闇の中だ。会場の脇には谷川が流れ、足を踏み外すと危険だ。

 恥をしのんでイベントの事務局に、迷子探しのお願いに出向いた。すぐに、トランシーバーで、スタッフ全員に迷子探しの連絡が入った。スタッフの皆さんは総出で、探してくれた。しかし、なかなか見つからなかった。少し焦ってきた。

 テント周りで探すのをやめて、ヘッドランプを点けて谷の方へ向かった。谷の降り口に大きな岩があった。その岩陰に動くものがあり、ヘッドランプで照らすと私の子どもだった。「どうしたの!」と聞くと、「ウンチしたくなってここへきたけど、帰れなくなった!」

 数年後、このイベントを主催した自動車メーカーの担当者と話す機会があった。この行方不明事件のことを話すと、笑いながら「はっきり覚えています。みんなでずいぶん探しました。あの子は中村さんの子どもでしたか!」

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。