- 第447回 -  筆者 中村 達


『ジュニアスキーでのこと』

 その昔、あるジュニアスキー教室に同行する機会があった。行先は兵庫県北部の、とあるスキー場だった。集合地では見送りの父兄と参加する子どもたちが、大勢集まっていた。当時は、スキーが華やかしい頃で、子どもたちのスキーも盛んだった。しかし、3泊4日のジュニアスキー教室というのは、まだ珍しかったように思う。
 バスの前で責任者が挨拶をして、子どもたちと指導者たちがバスに乗り込んだ。子どもたちはハイテンションで、隣席の参加者とすぐに仲良くなった。
 私は初めての経験で、子どもたちとどのように接していいのかわからず、ドキドキしていたのを覚えている。

 バスが走り出すと、簡単なオリエンテーションと、子どもたちとリーダーの自己紹介があった。そのあとは自由で、子どもたちは車窓から景色を眺めたり、友達と話し込んだり、何やら荷物を点検する者もいたりで、スキー場までのバス旅行を楽しんでいる風だった。いまであれば、ゲームでもするのだろうが、当時はまだコンピュータゲームもなくて、せいぜいトランプだった。

 走り出して3時間ほど経過した頃だろうか、隣席の児童が突然「先生!これ何編みか知っていますか?」とたずねた。リュックサックから毛糸を取り出して、何やら編みはじめたのだ。名札を見ると小学1年生の男子児童だった。面喰って「いや、しらないわ」と答えるのがせいぜいだった。
 すると「これ、ジャガード編みっていうのですよ。幅が短いので羽織るだけですが!」

 3泊4日のスキー教室の2日目が終わった夕刻、スキーヤーズベッドで休んでいる子どもたちのところへ、食事の呼び出しに出向いた。カーテンを開くと、あの子が正座をして毛糸を編みながら、横目で「はい、ただいま」とこたえた。
 もうかれこれ40年も昔のお話である。その子は50歳を超えているのだろう。
※画像はイメージです。本文とは関係がありません。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。