- 第445回 -  筆者 中村 達


『アウトドアの風景』

 登山が相変わらず人気だ。中高年にとって山を歩くことは、比較的簡単にできるし、学生時代は学校登山があり、職場でのハイキングも盛んだった。健康にも良く、昔とった杵柄で山を歩く人が増えた。
 一方、山ガールのブームは落ち着いたが、それがきっかけとなって若者たちが山に帰ってきた。帰ってきたという言い方は、私のような古い山屋の独特の言い回しで、山に登り始めたというのが正しい。それはともかく、多くの若い人たちが登山やハイキングを楽しみだしたのは、明るい話題だと思う。
 また、「山の日」が制定され2016年から施行されることが決まった。来年からはプレイベントなども行われ、国民的な関心が高まることが期待されている。

 私たちが参画しているロングトレイルの普及活動だが、日本ロングトレイル協議会に、今年は3トレイル運営団体が加入した。入会準備中の団体もたくさんあるので、来年はさらに増える。ただ、ロングトレイルはブームでできるようなものでは、決してない。長い年月をかけて人が歩いて徐々に完成されるものだ。お遍路は1200年の歴史がある。イギリスのフットパスは300年。アパラチアントレイルは100年ほどだ。次世代に続く山旅の道として、普及していけばと願う。
 さて、子どもたちの自然体験活動だが、キャンプや野外でのピクニックなどを楽しむ家族が増えたように思う。近郊のトレイルでも親に連れられた子どもたちの姿が、以前より増えたような気がする。そのせいか、ショッピングモールのスポーツ用品売場でも、子ども用のアウトドアェアや、トレッキングシューズの品ぞろえが充実しつつある。これは、かつては見られなかった現象だ。子どもはすぐに大きくなるので、割高なアウトドアウェアなどは敬遠されるきらいがあったが、親の意識も変わったのか、しっかりしたものを身に着けている子どもたちを山で見かけるようになった。

 学校も体験学習でロングトレイルを利用する機会が増えたようだ。あるロングトレイルには、学校の先生たちの視察が相次いでいる。子どもたちが歩いてくれる機会が増えれば、ロングトレイルの未来は明るい。

 先日、比叡山の延暦寺へと続く古道を歩いてきた。小雪が舞う寒い日だった。今も千日回峰行の道として知られている。さすがに登山者を見かけなかったが、一人のトレイルランナーが私たちを追い抜いていった。1200年以上の歴史の道と、トレランとの対比が何とも不思議な光景だった。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。