- 第412回 -  筆者 中村 達


『紅葉と観光客』

 ようやく休みが取れたので、近くの里山と寺院に紅葉を見にでかけてきた。久しぶりにフィルムカメラにリバーサルを入れて持ち出した。機械物はたまには動かしたほうがいい。ただ、近頃のデジカメはすべてオートで、時々露出の補正をするだけなので構図に集中できる。
 簡単で便利なデジカメに慣れてくると、フィルムを入れて焦点を合わせて、適正露出を選ぶという一連の作業はかなり面倒だ。一コマずつ考えながら操作し、シャッターを押すまでにそれなりの時間がかかる。オートフォーカスなら比較的簡単だが、すべてマニュアルの機械式カメラでは手間がかかる。
 ただ、フィルムカメラで撮影すると失敗が少ないようだ。一枚一枚ていねいに撮る。また、露出を考えながら撮影する習慣がつくので、デジカメ操作時でも同様に考える。デジカメのフルオートしか使ったことがなければ、F2.5とかF5.6と言われてもわからないかもしれない。だからと言って困ることはないとも思う。
 今年の紅葉は秋が短くて、いまひとつと言われているが、滋賀の古刹周辺の紅葉はさすがにきれだった。手入れが行き届いた木々の紅葉はなおさら美しい。
 紅葉の名所といえども京都とは違って人は少ないなあ、と思いながら山門をくぐった。階段をしばらく上がると、これまでの静寂とはうって変わって急に賑やかになった。
 山門を迂回したところに駐車場があり、そこが団体観光客の入口になっているようだ。観光バスが何台も停まり大人気だ。普段は訪れる人も少ないのだが、おおぜいの観光客が記念写真を撮っていた。
 先ほどまでの静寂はうそのようで、元気な中高年の人たちが茶店で土産を物色していた。トイレも満員で、特に女性用は長い列ができていた。男性用に入ると、突然ドアが開いておばさんが出てきたのには驚かされた。

 あまりにも多い観光客で、山内には入るのを諦めて、車で30分ほど走ってコーヒーショップに入った。満席だったが何とか座ることができた。店内を見渡してみると、女性客ばかりだ。よくよく考えてみると、この日は平日だった。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。