- 第396回 -  筆者 中村 達


『加熱する富士登山』

 7月に入って富士山の山開きがあり、TV、新聞などのマスメディアはいっせいに、富士登山をトップでとりあげた。世界文化遺産の登録もあって、富士登山の過熱ぶりはすざましい。レポーターが息を切らしながらの実況中継は、ご苦労さんを通り越して、気の毒にさえ思える。
 登山実況の映像を見ていると、遠くから富士山を眺めるのとは、ずいぶん趣が違う。遠景でみる富士山はどれもこれも優美だ。しかし、映し出される登山光景は延々と続く階段状の登山道やガレ場で、あの美しい姿は見られない。

 深夜、無数のヘッドライトの明かりが、どこまでも続き山頂近くでは大渋滞だ。このあたりになると、高度の影響で呼吸は苦しいし、疲れが出てくる。ヒマラヤ登山隊が高度順化のために、富士山で訓練するのもうなずける。
 また、夏というのにかなり冷え込んで、山頂ではダウンジャケットがほしい。
 それでも、日本人なら一度は登っておきたいという願望がある。その通りだろう。

 ただ、あまりにも加熱を通り越して、ちょっと異常事態だと思う。30万人から40万人もの登山客が、シーズンの7月8月の2か月間に押し寄せる。富士山のキャパシティを大きく超えているように思う。富士山は霊峰と呼ばれる。富士山自体がご神体であって、神の山である。そんな富士山をこれ以上汚してはいけない。

 以前から言われていることだが、富士山の環境問題は深刻な状況だ。トイレ一つとっても、浄化能力をはるかに超えているのではないか。ゴミ問題も大きな課題だ。車の排気ガスも動植物には大きなダメージを与える。だから自然遺産ではなく文化遺産になったのだが、メディアは世界遺産としか報じないことも多い。ビジターセンタがないことも、TVではほとんど伝えない。また、登山客が増加すると、悲しいことだが事故も増えるだろう。

 登山の人数制限も検討すべきだと思う。面倒だが事前申込制もありかも知れない。
 とはいうものの、私も7,8回は登っている。いまさら偉そうなことは言えないのだが・・・。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。