- 第392回 -  筆者 中村 達


『ロングトレイルがトレンド』

 ロングトレイルがトレンドだ。歩くための道、山道、登山道、自然歩道、あるいは林道などなどをつないで長い距離にしたものを、ロングトレイルと呼んでいる。日本のロングトレイルの歴史は長い。空海さんや最澄さんが開いた修験者の道は、時代を経て江戸の初期には、お遍路の道と呼ばれるようになった。
 ヨーロッパのロングトレイルは、サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の道が有名だ。その記録は950年ごろにまでさかのぼる。現在も多くの巡礼者がこの道を歩いている。
 ロングトレイルとして著名なのは、米国のアパラチアントレイルやジョン・ミューアトレイルだろう。アパラチアントレイルが踏破されたのは、1937年だから歴史としては浅い。また、米国のトレイルはレジャーやレクリェーションの色彩がつよい。こればニュージーランドのミルフォードトラックなども同じだ。

 イギリスのトレイルは、フットパスが有名だ。国民には歩く権利が保障されていて、私有地でもフットパスが通っている。その距離はイングランド、スコットランド、ウェールズを合わせて、22.5万キロメートルに及ぶ長大なものだ。フットパスの歴史は産業革命のころにさかのぼるが、国が法律を制定して整備し、国民に歩くことを積極的に奨励したのは戦後である。全土に網の目のように張りめぐらされていて、だれでも気軽に歩くことができる日常性も、大きな特徴だろう。レクリェーションや健康が大きな目的と考えていい。

 さて、国内にはレクレェーションや地域の活性化を目的としたロングトレイルが、整備され始めている。信越トレイルや高島トレイルがその代表格で、八ヶ岳山麓スーパートレイルや霧ヶ峰・美ヶ原トレイル、さらに北海道の北根室ランチウェイなども、観光や地域の活性化を目的にして設定された。また、塩の道や安藤百福記念トレイルも整備が進んでいる。

 高齢化社会を反映して、ウォーキングがブレイクしている。その人口は3500万人ともいいわれ、スポーツマーケットとしてもいまや注目される存在にもなった。
 しかし、ロングトレイルは整備したからといって、すぐに大勢の人たちが歩いてくれるわけではないと思う。本来、道は歩くことによって、あるいはモノや人が移動することによって、長い年月をかけて作られてきた。人が歩いて道ができるのであって、道を作ったから歩くだろうというのとは少し訳が違う。
 巡礼街道やお遍路の道、あるいはフットパスに見られるように、トレイルが定着していくには50年、100年単位の長い視点も必要だと考える。このトレイルを次の世代に、いかにして引き継ぐか、という認識も重要である。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。