- 第384回 -  筆者 中村 達


『ダウンウェア』

 ここ数年、ダウンウェアが日常着になったようだ。衣料量販店が5~6千円で販売して、大ブレイクしたようだ。それも数百グラムと非常に軽く、それでいて温かい。ひと頃のものに比べると、デザインもよくなったと思うし、カラーバリエーションも増えた。羽毛の機能も500フィルパワーを超える。街中でも、テレビのニュース番組などでも、同じようなダウンジャケットを着ている人を、多く見かけるようになった。
 よく聞かれるのだが、このダウンでアウトドアは大丈夫ですかだ。もちろん大丈夫。まったく問題ない。ただ、山では薄手のものは、中間着として割りきったほうがいいようだ。

 私がはじめてダウンジャケットを手に入れたのは、20歳のときだった。当時は国産のものはあったが、品質がいまひとつといわれていた。それで、輸入がはじまって間がない、フランスのM社ものを買った。3万5千円程度だったように思う。大卒の初任給より高かった。清水の舞台から飛び降りる気持ちだった。それを持ってカラコルムに出かけた。
 思い出のあるダウンウェアだけに手放さずにいたが、何年か前、遊びにきたイギリス人のバックパッカーが、ほしいと言うのでプレゼントした。羽が抜けるがいいかと言うと、まったく問題ない、これで快適に過ごせると喜んだ。

 当時のダウンウェアは、羽毛の品質は良かったが、布地や縫製が今のものに比べると劣っていた。脱ぐとダウンやフェザーが、下に着ているセーターにまつわりついた。テントの中で、羽毛が浮遊していたこともたびたびだった。
 価格の安いものもあったが、フェザーの混合比率が高く、ところどころで羽の芯が生地を突き抜けて、外に飛び出した。それでもダウンジャケットは、防寒具のなかでは、飛びぬけて優れものだった。

 いまやダウンウェアの品質は大変良くなった。安価なものでも、羽毛が抜け落ちることはほとんどなくなった。ダウンウェアは衣料品店、スーパー、量販店、デパートなど、どこででも売られている。価格帯は数千円から10万円を超えるものまで非常に幅広く、選択肢が多くなった。私もつい衝動買いをしてしまい、何着あるかよくわからない。

 しかし、実際に着るシーンはタウンが大半だろう。ダウンもまさに山から街にダウンしてきた。アウトドアより、街で着用する人の方が圧倒的に多い。アウトドアユースであったものが、タウンユースになった代表のひとつがダウンウェアだろう。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。