- 第373回 -  筆者 中村 達


『魚に怒っときます!』

 今年はスケジュールの調整がうまく出来なかったのと、猛暑日が続いたのでフライフィッシングはわずか2日しか出来なかった。それも白馬村で2時間、北海道の根室付近で1時間と、これではロッドを振っただけで釣りとはいえない。
 秋の禁漁期間になって、ようやく管理釣り場に出かけることができた。自宅から琵琶湖を渡って、北に車でおよそ1時間30分。琵琶湖を左に見ながら走るというのは、なんとも気分がいい。このあたりが、首都圏などでは考えられないアウトドア環境だろう。言い換えれば、単に田舎ということでもある。

 その管理釣り場、つまり釣堀は暑い日が続いたので、この秋になってようやく営業を再開したところだった。山中に作られた管理釣り場だけに、周囲は自然たっぷりで、いつ来ても静かで、ぼーっとしているだけでも来る価値はある。お気に入りの釣り場である。
 他の釣り客にお目にかかることはめったになく、営業的に成り立っているのか心配になる。管理人は寝ていることが多いし?、この日も管理室のドアを開けて、「こんにちは」と大声で呼びかけて、「ああっ!」と返ってきた。

 午後の遊漁代3,000円を払い、ベンチに座ってお湯を沸かして、カップヌードルとおにぎりの昼食を摂った。そうこうしていると、フライは初めてという知人がやってきた。
 ロッドの振り方を少し教えると、すぐにキャスティングをはじめた。海釣りのプロというだけあって、さすがに飲み込みははやい。タックルの扱いも簡単な説明だけですんだ。
 フライは、こと渓流では、はじめてから2年は釣りにならないといわれるが、この分だと早いかもしれない。負けてはいられないと、とりあえず定番のカディスの14番で投げてみた。

 ところが、何度キャスティングしても、魚の反応がまったくない。フライをいろいろ変えてみても同じだった。いつもなら、1時間もすれば、少なくても数匹はヒットするのだが、魚影さえ見えない。HPでは数日前にブラウンなどを放流した、とあったのだが・・・。

 管理人は「放流したばっかりで、潜っているかもしれませんね」。高をくくって、うっかりドライしか持ってこなかった。仕方がないので、イブニングライズの時間まで待つことにした。が、4時を過ぎても、5時になってもライズはまったくなかった。フライが初めての知人には申し訳なかったが、こんな日もあると、あきらめて帰ることにした。
 管理人室に立ち寄って事情を報告すると、首を傾げながら「魚に怒っときます!」。
 それでもまた来たいと思う管理釣り場である。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。