- 第372回 -  筆者 中村 達


『イギリスのフットパス』

 イギリスのロンドン郊外に住む知人から、フットパスについての詳細なレポートが送られてきた。
 日本ではまだ馴染みの薄い言葉だが、イギリスにはフットパスというトレイルがある。イギリスには「right of way」といって、「歩く権利」つまり通行権が国民に保証されている。現在、人口20~30%の人々が歩くことを楽しんでいて、登録されているオフロードのフットパス(通行権のある歩道)は総延長で225,000キロもあり、だれでも自由に歩くことが出来る。山や森はもちろん、私有地の庭であったり、ゴルフ場や牧場にもフットパスが通っているなど、歩く権利が確立されているとレポートは述べている。

 ちなみにこのフットパスにおいて歩行者がもたらす年間の経済効果は、イングランド61億4千ポンド(約8,000億円)、ウェールズ5億5千ポンド(約715億円)、スコットランドでは28億ポンド(約3,600億円)と推計され、巨大なマーケットをつくりあげている。
 国民がトレッキングやハイキング、あるいはウォーキングとして、ライフスタイルとして楽しんでいることがよくわかる。

 レポートは通行権とフットパスは、イギリス独特の風土や時代背景から誕生したと指摘し、その理由として次のようなポイントをあげている。
1)権利の尊重
2)産業革命がもたらした新たな生活環境(都市化、健康被害、ツーリズムなど)
3)イギリス人としてのアイデンティティー
4)紳士気質
5)エコロジーと自然保護
6)チャリティー団体の社会的役割
 中でも、紳士気質というのがイギリスらしい。派手な振る舞いは控え、質素に自然を楽しみ、四季を謳歌するというライフスタイルだ。私たちも見習うべきだろう。

 国内でも「歩く」は、大きくブレイクしている。早朝や夕刻には、健康ウォーキングを行っている人たちが大変多くなった。ウォーキングシューズやトレッキングシューズがあらゆるスポーツシューズの中で、ダントツに売れていることもそれを裏付けている。各地でロングトレイルの整備も進み、歩く環境はかつてないほど整ってきたといえる。
送られてきたこのレポートを読んで、歩く道が整備された国には「品格」が備わるのではと、やや短絡的ではあるがそう感じた。

※「フットパス」レポートは、近く掲載の予定です。
※資料提供 Shino Setsuda

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。