- 第371回 -  筆者 中村 達


『北根室ランチウェイ』

 北海道の東部に北根室ランチウェイ(http://nafoot.exblog.jp/)という、ロングトレイルが昨年開通した。その一区間を歩いてきた。ランチウェイは牧場という意味で、大規模酪農地帯根釧平野を貫くようにつくられた、全長71.4kmのトレイルだ。スルーハイクに少なくとも3日はかかる。
 ところで、北根室といわれてもどのあたりか、特に私のように関西に住む人間は、よくわからないというのが正直なところ。根室の位置はなんとなくわかっていても、北根室となると、どのあたりかさっぱりだった。

 このトレイルの主宰者である、佐伯さんにたずねると、「本当は中標津ですが、全国的にも知られている根室の地名を借りて、北根室にしたのです」と正直だ。
ランチウェイのウリのひとつは、空港から歩けることだという。中標津空港にもトレイルが通っているので、飛行機から降りて、そのまま牧場を突ききって歩ける。 歩いてみて、その広大さに圧倒された、というのが正直な感想だ。

 ところで、北海道は広いので、どこでも歩けるだろと思うが、実際には酪農地帯が多く、トレッカーやハイカーはほぼ立ち入ることは出来ない。特に、口蹄疫など家畜の伝染病対策などもあって、関係者以外の立ち入りは、基本的に禁止されている。
 しかし、北根室ランチウェイは牧場主がトレイルの主宰者であり、他の牧場の理解や協力が得られやすかったという背景がある。それでも理解を得るのは大変だったそうだ。
 佐伯さんは、牧場の仕事で食べられるようなったので、これからは、地域の活性化にロングトレイルをつくって貢献したいと、その動機を語ってくれた。そのため、トレイルには相当額の私費を投じている。もちろん、牧場の経営者仲間やボランティアの応援もある。古い厩舎を改造して宿泊施設にしたり、キャンプ場を作ったりと、トレッカーのためのインフラ整備にも力を注いでいる。
 その、北根室ランチウェイの1区間を佐伯さんの案内で歩いた。広大な牧場や草地を柵を越えて歩き、森を抜け、手作りの熊よけ鐘を鳴らして小川を渡り、厩舎の前を通り、防風林の中を歩くという、まさに、外国のトレイルを歩いているような気分だった。
 今回は歩けなかったが、摩周岳に登り、摩周湖に向かって降りるコースは圧巻だそうだ。

 こんなトレイルが全道に延びて、北海道一周などが実現すれば、まさに北海道はアウトドアランドとして、日本を代表するアウトドアフィールドになるのではと思う。LCCの就航も増えていくことだろうから、リーズナブルですばらしい「歩く旅」が、身近なものになると期待したい。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。