- 第360回 -  筆者 中村 達


『テントはひとりで』

 先日、長野県の小諸市にある安藤百福センターで「アウトドアフォーラム2012」を開催した。各分野の専門家の興味ある発言や、貴重な意見がたくさんあった。

 穂高岳涸沢は昨年秋、多い日には1,000張り以上のテントが張られたそうだ。あまりにも多いので、途中で数えるのをやめたので、実際にはそれよりもかなり多かったしい。(前回のコラムでは、1,200張りと書いた)
 ところで、そのテントが3人用であっても、4人用であっても寝るのは1人が大半という。3人で来ても、4人のパーティでも1人に1張りが多いそうだ。だから、こんなにもテントが増えたという。涸沢のような比較的広いテントサイトであれば、無理をすればなんとか張れるのだろうが、アルプス山上のテントサイトは狭いところも多いので、果たしてどうなるのか。
 プライバシーを確保するという気持ちは、わからないでもないが、一方で、高山植物などの宝庫だけに、自然環境が保たれるのか少し心配ではある。

 それでも、若い人たちが山でテントで寝るというのは、歓迎である。若者たちの山離れが言われて久しいが、ようやく回復傾向が見えてきた。また、興味深いのは山小屋で食事をとって、ビールを飲んで、山にいるそのこと自体を楽しむ若い登山客が増えたという。他の山域の山小屋でも同じような傾向で、山小屋の景気は好調だそうだ。
 また、ゲレンデしかしらないスキーヤーに、バックカントリースキー(山岳スキー)をしっかり指導すると、嬉々として楽しんでくれた、という登山家からの話もあった。若者たちにも技術を教えれば、アウトドアアクティビティのフィールドは大きく広がる、という趣旨の発言だった。そんな機会を増やすことも課題だと思う。

 落ち着いてきた感がある山ガールブームが山ボーイに波及し、それが若い世代のアウトドアズファンを増やし、アウトドアでの楽しみ方を広げている。何よりも、自然の中に自分をしっかり置いてみたい。そんなアウトドアライフスタイルがトレンドなのだろう。これまでとは、少し違った楽しみ方である。山の未来は明るいというのが、山岳関係者の一致した意見だった。すばらしいことだ。
 この夏は、久しぶりにテントを持って山に登ろうか。そんな心境になった。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。