- 第359回 -  筆者 中村 達


『キャンプが人気』

 そういえば、しばらくテントで寝ていない。山はもっぱら山小屋を利用している。テント泊は、寝袋や食料、コンロなどが必要でリュックは重くなるし、何より面倒臭くなった。若い頃は山小屋泊など考えられなかった。山岳部時代、夏山合宿はほぼ1ヶ月間テント泊だった。カラコルム登山では少なくとも2ヶ月はテント生活が続いた。

 子ども達が小さい頃は、オートキャンプによく出かけた。家財道具一式を運んでいたようなキャンプだった。いつも定番のバーベキューキャンプだったが、子ども達はテントが大好きで、キャンプ場周辺の森や川は、不思議発見の世界だった。
 当時は「安、近、短」がレジャーのキーワードで、各地にオートキャンプ場が続々と設置された。参加人口は1,500万人とも言われていた。しかし、実態はアウトドア、イコール、バーベキューのような雰囲気だった。RV車が売れに売れた時代だった。ちなみにオートキャンプは和製英語で、米国などでは通じない。

 その頃からキャンプ用品は、ホームセンターやスーパーなどで簡単に手に入れることができる日常生活用品になった。
 このオートキャンプブームは、一旦下火になるものの、いま、再び静かに広がりつつある。あるGMSでは、GW前からアウトドアコーナがつくられ、テント、イス、バーベキューセットなどが積まれ、レジ前にはガスボンベや着火剤などが置かれていた。すっかり日常的なレジャーとして定着した感がある。それはそれで結構なことだと思う。

 一方、登山用のテントが売れに売れている。昨年秋、標高2,000mの北アルプスの人気山岳では、多いときには1,200ものテントが張られたそうだ。山小屋に設置されたトイレには長蛇の列ができ、待ち時間は2時間にもおよんだと聞いた。
 中高年登山がブームで、百名山登山が目標となっていた頃は、山小屋利用が中心で、テント場は最盛期でも閑散としていた。
 いま、登山でのテント泊はソロが多く、大きなテントで頭を並べて寝る、という光景は少数になった。プライバシーを確保したい、ということなのだろう。それに、食事は山小屋でというテント泊組も多いという。

 テントやコンロなどの装備は、ずいぶんと軽量化され性能は、飛躍的によくなった。昔のお話だが、登山装備の軽量化は安全と反比例するのでは、という論争があった。いまや登山装備の軽量化と安全は、ほぼ確実に比例してきたといえる。
 冬山でビニロン素材のテントが凍りついて、重量とカサが倍近くになった経験をもつ人も多いことだろう。特注のキスリングに、苦労して凍ったテントをパッキングしたこともいまや笑い話でしかない。キャンプ用品や登山用具の軽量化が、テント泊を容易にしている大きな要素のひとつだろう。昔日の感である。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。