- 第357回 -  筆者 中村 達


『立山春スキー』

 毎年のことだが、今年もGWに立山へスキーに出かけてきた。よくたずねられるのが「まだ雪があるのですか」とか「何メートルありますか」などだ。「多いところでは10メートル以上、少ないところでも数メートル」とこたえている。たいてい「そんなに?」と驚きの声が返ってくる。今年は昨年より少なく感じたが、それでもたっぷり積雪があった。

 連休の前半に出かけるか、後半にするか悩ましい。昨年までは前半に出かけ、2年連続悪天だった。吹雪とホワイトアウトでスキーどころではなかった。一昨年などは、2度も一の越まで登って、2度とも黒部側は風雪でまったく視界がきかず、すごすごと引き返した。昨年などはホワイトアウトで、前後上下の方向感覚を失って、メンバー全員がスキー酔いをしてしまうという、笑うに笑えない経験をした。

 この時期、天候は急変する。晴れていれば初夏の陽気で、日中であればTシャツでも過ごせるときがある。ところがいったん崩れると、真冬の状態になる。吹雪になれば視界は全くきかず、気温はマイナスに下がる。だからGWの頃は遭難が多発する。今年も白馬岳周辺で大量遭難があった。実に悲しいことである。
 立山の春スキーの装備とウェアは、冬山登山とさほど変わらない。使用する頻度は少ないが、ビーコン、ハーネス、カラビナ、ザイル、ピッケル、アイゼン、ダウンジャケット、ツエルト、コンロ、それに非常食は必ず持参している。
 スキーはファットで、スキー用のアイゼンを付け、登りにはシールをセットする。定宿の天狗平の小屋をベースにしていても、外に出ればこんな装備が必要だと思う。

 昨年まではGWの前半に出かけて悪天に見舞われたので、今年こそはと後半を選んだ。週間天気予報では好天だったのに、上がってみると曇り空で、生温かい風が吹いていた。天狗山周辺で数本滑って、早々に小屋へ逃げ帰った。翌日は雨が雪に変わり、その後、吹雪に雷鳴が轟く嵐になった。
 仕方がないので、小屋の中で久しぶりに、ともすれば忘れがちのザイルワークとノットの練習で時間をつぶした。こんな日の昼食は「どん兵衛」にスライス餅を加えるのがいい、なんて今頃になって気がついた。

 夕方になって気圧の谷が通過し、ようやく晴れてきた。3日目の朝、気温が下がってクラストした残雪に、新雪が5cmほど積もった最高のコンディションになった。天狗山の斜面で、5月とは思えない滑りを楽しむことが出来た。が、今年も黒四ダムまでの滑降は果たせなかった。またまた来年の宿題になった。
 ところで、年を追うごとに立山に来るスキーヤーやボーダーは、少なくなってきたように思う。特に若い人たちの減少が著しく、中高年ばかりが目立っていた。昨年は、東日本大震災の影響で外国人観光客も大きく落ち込んだが、今年はアジアの国々から大勢の観光客が訪れていた。それはそれで結構なことだと思う。下山時、バスの中で映し出されたガイドの音声は中国語だった。外国にいるような不思議な感覚になった。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。