- 第356回 -  筆者 中村 達


『新緑の山歩き』

 連休は毎年のことだが、近くの山を歩くことにしている。今年も滋賀の中央分水嶺高島トレイルにある、赤坂山(823.8m)に登りに出かけた。自宅からはびわ湖大橋を渡って、およそ1時間30分で登山口のマキノに着く。かつてはマキノ町といって、国内で唯一のカタカナ表記の自治体だった。市町村合併で高島市となった。

 高島トレイルは屈指のロングトレイルで、年間5万人もの登山客が歩くという、人気スポットになっている。京阪神や名古屋圏からも日帰りが可能で、赤坂山付近のトレイルはすこぶる眺望がいい。南に向かって右手に日本海、左手にびわ湖が見える。標高が800m程度の山々が続くが、強風と積雪の影響で低木と草原地帯となっていて、低山とは思えない景観を作り出している。もっとも、いま問題となっている若狭湾にある一連の原発からの送電線が走っていて、少し違和感がある。それでも、その違和感を打ち消して余りある、すばらしい自然が広がっている。
 かつて、マキノ高原は近畿圏では屈指のスキー場だったが、いまはその緩やかな地形を利用したキャンプ場となっている。GWは最盛期で、多い日には500張り以上のテントが並ぶ。この日は連休前半の最終日だったので、歩き始めたときには、すでに多くのキャンパーは撤収作業の最中だった。子どもたちが大きなテントの周りで、走り回っていた。

 新緑が美しく、この時期トクワカソウが咲く。人気の赤坂山だけに、大勢の登山客でにぎわっていた。中高年登山者の団体に、ファミリー登山客も目立つ。アウトドア雑誌から抜け出したような山ガールに山ボーイも多い。ブームは一段落して、何となく定着してきたようだ。
 よく整備された登山道を歩いた。汗ばむ季節だが、新緑がさわやかだった。沢に沿って、ところどころにカタクリが咲いていた。リョウブは新芽をつけ、クロモジは花盛りだった。イワカガミはつぼみが膨らんでいた。ブナやミズナラは、これから緑がいっそう鮮やかになる。
登りはじめて2時間ほどのいつもの場所で、今年もトクワカソウの群落があった。一面にトクワカソウが咲き乱れていた。
 写真を撮りながら、ゆっくり登っているうちに、後発の登山者たちにすっかり追い抜かれ、山頂に立ったのはずいぶん後だった。息を切らさないように、ゆっくり歩くのが快適登山のコツだと思う。が下りは早い。昔の山屋は、なぜか下りが早い。山頂に立つのは遅いけれど、登山口に着くのは早い。もっともこの日は、下山途中でコーヒーを沸かしたので、下山も遅かった。新緑をたっぷり満喫した山歩きだった。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。