- 第355回 -  筆者 中村 達


『バックカントリー』

 今年は積雪が多く、例年ならシーズンが終わっているスキー場も、連休あたりまで営業するところがたくさんある。上信越あたりのスキー場も、まだ3~4mもの積雪があると聞いた。だからもう少しスキーシーズンは続く。
 昨年シーズンは3.11によって、スキーヤーもボーダーも激減したが、今シーズンはその反動で少しは回復したが、まだまだ厳しい状態が続いている。

 さて、最近やや目立つのが、バックカントリースキーヤーやスノボーだ。3月の中頃に上越のスキー場に出かけたが、コースではない樹林帯に多くのシュプールがあった。あまりに多いので、スキー場の関係者に尋ねてみると、そのシュプールはほとんどが外国人スキーヤーやボーダーなのだそうだ。特に増えたのが、スウェーデンやフィンランドといった北欧からの人たちで、昨年よりかなり増加しているという。北欧は積雪もあり気温は低いものの、日本の豪雪地帯のような深雪は少ない。深雪が魅力なのだろう。そのうえ、滞在費やリフト代も安く、総じてリーズナブルであることも、彼らをひきつけているようだ。

 バックカントリースキーやボードは、国内でも静かなブームとなっている。最近では、バックカントリー用のスキーブーツや板も充実して、性能も飛躍的に向上してきている。
 バックカントリースキーは、自然を全身で感じることができ、雪の上を鳥のように滑走できるのが何よりも魅力的だ。整地されたゲレンデを滑るのではなく、自然のままの斜面や樹林帯を滑るので、本来のスキーの楽しさがある。少し前のことだが、ニューイングランドの登山ガイドが、日本人はゲレンデスキーヤーがほとんどだと知って、「金持ちばかりだね。私たちはもっぱらお金がかからないバックカントリーだ」と皮肉混じりに語ったことがあった。

 一方で、バックカントリースキーヤーやボーダーが増えるに従って、遭難事故も多発している。ゲレンデから離れると、そこは雪山の世界だ。尾根を一筋間違うだけで、戻れないことだってある。ボーダーが深雪にはまって脱出できず、そのまま低体温症で亡くなるという事故も発生している。

 増える遭難に、コースから外れた事故には、救助費用を実費請求しているスキー場もある。当然のことだろう。バックカントリーは自己責任であることを認識する必要がある。
 バックカントリーには、非常食、スコップ、レスキューシート、ツエルトなどに、出来ればGPSやビーコンも持参したい。それに万が一の事態に備えて、山岳遭難保険などにも加入しておく必要がある。こういったことを徹底するために、講習会や研修会も開催することが望まれる。

 スキーやスノボーの楽しさは、本来的にバックカントリーにあると思う。バックカントリースキーが増えていけば、この国のスキー人口もそれなりに定着していくのではと期待している。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。