- 第353回 -  筆者 中村 達


『山岳プロ学科』

 妙高市にある国際自然環境アウトドア専門学校の入学式に出かけるのに、交通手段を迷いに迷った。爆弾低気圧が日本海を通過するので、外出は控え帰宅は早く、などとニュースで報じられていた。当初は車で向かう予定だった。現地での移動は自由が利くので都合がいい。しかし、2日前にスタッドレスタイヤを、夏タイヤに交換しまった。自分の見通しの甘さと、タイミングの悪さに嫌気がさした。結局、当地は降雪もあるという予報もあって、JRで向かうことにした。

 新幹線で名古屋まで行き、中央西線の特急「しなの」で長野へ。長野から信越線で最寄りの関山駅まで、という6時間の旅程となった。車で行くのとさほど変わらない。予定よりかなり早めに自宅を出たが、すでに強い風が吹いていた。電車は全て遅れに遅れたが、何とか妙高高原にたどり着いた。ニュースをみると、後の列車は運行見合わせか、中止だったので結果としてラッキーだった。夜半、外は嵐だった。朝、窓の外は吹雪で、すでに新雪が10cm以上も積もっていた。

 前置きが長くなった。入学式はアウトドアズのトレンドを反映してか、山岳プロ学科の新入生が15人もいた。例年なら同学科は5、6名の新入生というところだが、一気に3倍以上の人気学科になった。15人を多いと見るか、たったの15人かと考えるかだが、15人もの若者達を3年間集中して山岳のプロ(ガイドなど)に仕上げるべく教育するというのは、この国では前代未聞のように思う。画期的なことだ。学校関係者の努力の結果だろう。

 もちろん、3年間で一人前のプロ登山家や山岳ガイドになるのは、まだまだ経験不足ではあるが、登山だけでなく、環境教育をはじめ自然に関する様々な分野を総合的に学習するので、登山家としてのいっそうの資質の向上が期待できる。
 新入生に聞いてみると、「山が好き」「山に登ってみたい」など、ごく当然のこたえが返ってきたが、彼らの将来の仕事として、しっかり見つめているように感じた。
 アウトドアズの専門学校だから、アウトドア好き、自然好き、山好きはもちろんだろうが、これまでこの国では、職業としての「自然の仕事」は、「食べられる」という至極当たり前のことが、不透明であった。
 世の中には、自然解説者、自然指導員、環境保護員、環境指導員、自然体験指導者、登山指導員、インタープリターなどの資格が数多あるが、職業として社会的に広く認知された資格は、山岳ガイド(自然ガイドを含む)ぐらいではないかと思う。

 一方で、この国の山岳ガイドの社会的な地位は、欧米のそれと比較して、決して高くはないし、危険や困難が伴い、肉体的にも精神的にもきつい労働の割には、待遇は恵まれているとは言えない。しかし、山岳ガイド需要は、これから相当程度高くなるのではと予想している。特に、日本の自然を求めて外国人観光客やハイカー、登山者などが大きく増える可能性がある。そのため、彼らにも対応できる、単なる通訳ではない、しっかりした自然解説と安全にガイディングができる、質の高いガイドの養成が急務である。もちろん、国内での自然体感型観光のニーズも高くなって、山岳ガイドの必要性が増してくるものと予想する。

 自然体験活動の重要性は、いまさら論じるべくもないが、自然学校で葉っぱを見せて、キャンプするだけのような活動だけでは、持続可能な体験活動とは、とても言えないのではと思う。ダイナミックに自然をガイドし、インタープリテーションすることが、感動と達成感を与え、持続可能な体験活動の大きな要素となるはずである。何しろフィールドは、70%が山岳地だから。

 プロの登山家や山岳ガイドを目指す新入生に期待したいと思う。こんな若者達が数多く出現してくれれば、「若者の自然離れ」というフレーズは、使うことがなくなるだろう。そんな日が早く来てほしいと願う。

(次回へつづく)


■バックナンバー

■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。