- 第352回 -  筆者 中村 達


『東北海岸トレイル構想』

 環境省が計画している、東北海岸トレイル構想のモニターツアーに参加して、三陸海岸を歩いてきた。
 東日本大震災で甚大な被害を受けた海岸沿いに、自然歩道などをつないで、およそ300kmものロングトレイルを設定しようという構想がある。被災地に内外から多くのバックパッカーやハイカーが訪れ、人々との交流で少しでも復興の応援ができればという願いも込められている。
 まずは、被災された人々の生活再建が最優先だが、地域観光の活性化もこれからの課題だろう。東北海岸沿いの豊かな自然環境と、歴史と文化の中で育まれてきた人々の暮らしを、ロングトレイルを「歩く旅」で感じとることができればすばらしい。
 バスに分乗して宮古を訪れた。車窓から見た被災地は、想像以上の惨状だった。瓦礫が取り除かれているため、更地が広がっているように見えるが、建物の基礎は残ったままで、そんな風景が延々と続いていた。何もかも津波に呑まれ、破壊されてしまった惨状を目の前にして、涙があふれてきた。私たちに何ができるのか、思いを新たにした。
 今回のモニターツアーでは、リアス式海岸沿いの主な自然歩道を、2日間にわたって歩いた。葉を落としたブナやナラや、松などの混合林の自然歩道を歩いていると、米国東海岸のトレイルと、どことなく錯覚してしまった。
 時折、春雪が舞う寒い日だったが、紺碧の海が木々の間に見えた。この美しい海から津波がやってきたと思うと、なんとも複雑な心境になった。
 バスで移動の途中、山間部の集落で、一人作業をするお婆さんが、手を止めてにこやかに、こちらに手を振ってくれた。このロングトレイルが整備され、こんな光景があちこちで見られることを願っている。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。