- 第342回 -  筆者 中村 達


『パリでスキーブーツを買う』

 所用ができて、急遽フランスに出かけてきた。
 用事は2日ほどで済んだので、パリにあるアウトドアショップを夕刻に訪ねた。アルプスがあるお国柄だから、伝統的な登山用具メーカーや、有名スキーブランドなどが数多ある。しかし、登山用具専門店やアウトドア用品店は、市内には意外に少ない。これらのショップの多くは、シャモニやグルノーブルといった山岳リゾート地にある。登山やスキーに出かける際、用具・用品は現地調達というのが、ごく普通に行われている。この辺の事情は、欧米に共通しているようだ。
 とはいえ、パリ市内にもアクティビティ別にカテゴライズされた、専門店が何店かあるにはある。そのひとつがカルチェ・ラタンの近くにあって、数年前にも訪ねたことがある。

 今回は、スキーツアー用のブーツのいいのがあればと思って、アルペンスキーの専門店に入った。1Fがスキー板、B1がブーツ専用コーナーになっていた。
 スタッフに「英語が話せますか?」とたずねることからはじめる。
 フランスでは英語が通じない。あるいは、話せるけれどフランス語に誇りをもっているので、話さない。などと、よく耳にするが、私の経験では、少なくとも観光地や外国人の多いところでは、私の英語でも十分コミュニケーションは可能で、知らん振りをされたことは、これまで一度もない。だから言葉で困った経験はない。

 スキーブーツを選ぶときは、それなりに慎重さが必要だ。ぴったりフィットするブーツを見つけるまで、妥協をしてはいけない。そのためには、こちらの要求をしっかり伝えることが重要だ。欧米人の足は、大きくて細いなどといわれる。日本人は短くて幅広が多い。
 その点、私の足は28.5cmと馬鹿デカイが、幸いにして細い。だから、欧米の靴はたいていジャストフィットする。フランスでスキーブーツを買うのは、今回で2度目だった。

 対応してくれたスタッフは、流暢な英語でいろいろと質問をしてきた。「どんなスキーをするのか?」「どんな斜面をすべるのか?」「経験は?」などと細かい。
 「軽くて少し柔らかめがいい」と言うと、数多くのブーツの中から、迷わずイタリア製のD社のものを出してくれた。少し大きかったので、ひとサイズ小さなものに変えてもらった。「指先でピアノが弾けるか?」とスタッフ。「大丈夫、弾ける」と私。これでジャストフィットだ。

 せっかくだからと、いろいろなメーカーの製品と履き比べたいとお願いした。「もちろんだ」とA社、B社、C社の新製品を次から次へと出してくれた。「閉店の20時まで、ゆっくり選んで!」と笑顔が続いた。

 結局、そのスタッフがすすめてくれた、D社のブーツを購入することにした。価格は日本円で5万円弱といったところだ。免税扱いになるので、10%あまり戻ってくる。しめて国内市販価格の50%ほど、といったところだ。

 もちろん、航空運賃や滞在費などをあわせると、高い買い物になるのだが、足がデカイ私にとっては、サイズ探しで苦労しなくていいのが、なんともうれしい。
 そのスタッフは前傾角度の調整、さらにフィットさせるにはどうすればいいか、などなど、細かく説明してくれた。最後に、「ブーツケースをプレゼントします」と言って、ファスナーの開口部近くに縫いつけられた、フランス国旗をアレンジしたロゴを見せ「フランス製だよ!」とウインクした。

 さて、驚いたことは、この店に置いてあったスキーブーツの大半が、山岳スキー(ツアー)用のものだった。滑るときは、足首がスキーブーツのようにしっかり固定されるし、歩くときは開放されて、柔軟に前後する。ツアー用のビンディングとセットで使うと、雪面を歩くことができる。だから、どんなスキーを履いている?ビンディングは何か?と何度もたずねられた。
 この店では、いわゆるアルペン用のスキーブーツは、店の片隅に追いやられた格好だった。来ていたお客も、ほとんどが山岳スキー用のブーツを物色していた。

 国内ではまだ少数派だが、少なくともパリでみたスキートレンドは、そんな風だった。もちろんスキー板はファットスキーが主流で、競技用のアルペンスキーはほとんど見ることがなかった。
 果たして整備されたゲレンデではなく、バックカントリーで滑るというのが、欧米からトレンドとなってやってきて定着するかどうか、興味をもって見ていたい。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。