- 第338回 -  筆者 中村 達


『信越トレイルを歩く』

 長野県北部の飯山市にある、信越トレイル(http://www.s-trail.net/)を歩いてきた。新潟県境の関田山脈に整備された、80kmのロングトレイルだ。地域の活性化と自然環境の保全を目的に、官民が協同して作り上げた「歩く旅」の道だ。この日歩いたのは、その核心部の8kmと、ほんの少しだけだったが、インタープリターの解説を聞きながら歩くと、ほぼ1日の行程になった。

 5年前に全線開通して、いまや、全国的にも有名なトレイルになった。当初はトレイルという名称さえ一般的ではなく、地域で理解を得るために、さぞ苦労があった推測する。
飯山は豪雪地帯で、かつてバブルの頃はスキー場が隆盛を極めていた。斑尾、戸狩、木島平、飯山国際、それに信濃平などのスキー場があった。しかし、景気が悪くなってスキーやスノーボード人口が激減するにつれ、ご他聞にもれず入り込み客は減少し、飯山国際と信濃平スキー場は閉鎖に追い込まれた。

 その一方で、いま、健康志向や環意識の高まりなどで、歩く人口が増えている。ウォーキングブーム、トレッキングブーム、そして山ガールなどが続いている。もちろん、この「歩く」の経済効果は、スキーやスノーボーの高額消費には及ばないものの、着実に地域の活性化に貢献しているようだ。ある民宿の女将さんが、スキーは駄目だけど、トレイルでグリーンシーズンのお客が増えてきた、と語っていた。
 ちなみに、昨年度はこの信越トレイルを歩いた人たちは、同クラブが把握しているだけで33,000人を超えたそうだ。ただ、大型観光バスでやってきたツアー客が、歩いて、トイレ使って、ゴミを捨てていくだけでは、経済効果は薄い。
 トレイルの整備やガイドの養成などにも予算が必要だ。それらの資金を賄うための方策も課題だろう。トレイル利用によるビジネスモデルの構築がいる。
 この日、1,000mラインのブナの森は、ほぼ落葉していた。しかし、それが空間をつくりだして、稜線からは右側に上越市と日本海が見えた。左側は眼下に千曲川が見下ろせ、野沢温泉や志賀高原、苗場山など上信越の山々が眺望できる、すばらしいトレイルだった。ガイドいただいたインタープリターの、右足は新潟、左足は長野という説明がいつまでも耳に残った。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。