- 第335回 - 筆者 中村 達
『秋のアウトドアなこと』 アウトドアズのシーズンである。10月に入って、急に気温が下がり、秋冬物が売れ出したと聞く。近くのスーパーの衣料品コーナーでは、なんとなく山ガール風ファッションを着たマネキンがあった。パーカーもパックも帽子も、そしてブーツもアウトドア風である。みんな風だが、一昔のことを思うと、この風でも、それなりの性能や機能もあるように見える。 GMSやスーパーでは「○○ヒート」とか「ヒート○○」なんていう、発熱素材のアンダーが、やたら目に付くようになった。昨年は早や早やとSOLDOUTになった製品も多かったそうで、早めに購入しておこうと、消費者心理が刺激される。 少し前のことだが、発熱素材を米国のアウトドアメーカーに販売しようと、あるメーカーが現地で調査をおこなった。しかし、米国のアウトドアズマンは、アンダーウェアにはさほどこだわらないようだった。吸水性があればいいので、ポリエステル素材のもので十分と、関心は低かった。民族性の違いなのか、習慣なのか、気候の問題なのかよくわからないが、ニーズはなかった。少なくとも当時は。 いま、国内でアンダーウェアは、吸水、速乾、発熱、UVカットそして、防臭の機能が、日常の衣料として当たり前のように、それも格安で販売されている。もちろん、アウトドアでも十分使用に耐えると思う。ただ、アウトドア用としては作られていない場合も多いので、縫製やカット、デザインなどにはチェックが必要だ。 ダウンジャケットも注目だろう。重さが200gを切る、なんてものも出現して驚きだ。しかも価格はアウトドアブランドものの半値以下と超格安だ。アウトドアショップに勤務している私の友人は、太刀打ちできませんと、半ばあきらめ顔だった。ついつい食指がのびてしまいそうだ。 昔のことを言うと、若い人に嫌がられるだろうが、冬山はナイロンのヤッケとパンツの上下だった。防水性能も決して良くなく、山に出かける前には、毎回防水スプレーを吹き付けたが、さしたる効果はなかったような気がする。それに比べれば、カジュアルショップやスーパーで売られているパーカーは、最低でも撥水加工が施されている。5,000円以上も出せば、透湿性が付加されているモノもある。ちょっとしたアウトドアでなら十分使える。あの当時のことを思えば、・・・と、いつもこんな想いがよぎってしまうのだ。 このように少し見渡してみると、やたらアウトドア風が多いのに気づく。デザイン、素材ともアウトドアモノにひけをとらないようだ。ただ、私にはこれらのモノの先に、アウトドアのフィールドが見えてこない。山や川や森が、まだ、見えてこない。なぜだろうか。 とはいえ、手ごろな価格で手に入れることができて、多くの人たちがアウトドアへ出かける機会が増えるとすれば、すばらしいことではある。 (次回へつづく)
■バックナンバー ■筆者紹介 中村 達(なかむら とおる) 1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー 安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。 生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。 |