- 第333回 -  筆者 中村 達


『山を歩いて熱中症?』

 9月に入って気分は秋で、急に京都の山を歩きたくなった。愛宕山にでも、と思っていたが、あまりに暑いので、手近なところで大文字山(465.4m)となった。このあたりの決め方は、かなりええ加減である。
 大文字山は京都市の東側に位置していて、五山の送り火でも大変よく知られている。子どもの頃は、私の自宅から大文字山や比叡山がよく見えて、これらの東山連山は、日常生活の風景として存在していた。

 コースは銀閣寺のあたりから往復するのが一般的だが、ハイキングとしては物足らないので、この日は、山科から歩くことにした。
 JRの山科駅を下りると、真夏のような日差しにさらされた。住宅街を通って、毘沙門堂を抜け、山科聖天に着いたときには、汗が全身から噴出してびしょ濡れ状態になった。
 木陰は、少しは涼しいが、風もほとんどないので蒸し暑い。ハイキング道に入り杉林の中を歩いた。季節がよければ気分もいいのだろうが、こう暑くては思考力も減退して、ただただ大文字山の山頂にたどり着くことしか頭になかった。2本持参したペットボトルの水も、すでに1本は空になった。呼吸が苦しいわけではない。足が疲れているのでもない。なんとなく、ボーっとしてしんどいのだ。

 2時間ほど歩いて、ようやく山頂に着いた。昼時なのでお腹も減っているはずなのに、食欲がない。普通ならすぐに弁当を食べるのだが、とてもそんな気分にはならなかった。同行者が「どうした、おかしいねぇ」などと言って、おにぎりをパクついた。しばらくして、ようやく気分も回復して昼食をとった。

 小一時間休憩して、京都市内に向けて下山をはじめた。なんとなくボーっとして、大文字の火床もそこそこに、再び噴出した汗をぬぐいながら下った。途中、弘法大師ゆかりの水場で、水をたっぷりと飲んだ。冷たくておいしくて、次第に気分もよくなってきた。ありがたさをつくづく感じた。

 銀閣寺からの哲学の道は、まるで、砂漠を歩いているような気分だった。ようやくたどり着いた南禅寺では、和尚に「じーっとしてても、暑おす」「よりによって、こんな日に」と笑われた。どうやら軽い熱中症にかかったのだろう。こんな暑い日には、山になぞ登るものではない。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。