- 第332回 -  筆者 中村 達


『雨男になった今年の夏山』

 この夏、北アルプスの異なる山域を、2回に分けて登りにでかけてきた。2つの山行ともずぅーっと雨にたたられた。合計で7日間、毎日が雨だった。例年ならレインウェアは、年に数回も着ればいいところだが、この夏は毎日お世話になった。
 ガスで視界が悪く景色が全く見えない日もあって、自分の位置は勘に頼るしかない。こんな時は、高度計付きの腕時計が役に立つ。GPSがあればなおいいのだろうが、高価なので購入するかどうか、まだ躊躇したままだ。

 レインウェアは高性能、高機能だが、さすがに高山でも夏は汗にまみれて、アンダーウェアもすっかり濡れてしまった。ただ、アンダーウェアも機能性が飛躍的に高くなっていて、ヒンヤリ感はさほどない。リュックサックカバーは、底に雨水が溜まって時々流してやらないと、リュックの底に水が染み込んでくる。リュックの中味はスタッフバックに入れ、なおかつビニール袋で2重にパックしたが、それでもなんとなく湿った感がぬぐえない。
 雨を予想していたので、直前に防水デジカメをネットで購入した。雨の中では確かに便利ではあるが、豪雨の中では、正直なところスナップ程度しか写す気にならなかった。横殴りの雨で、ガスが立ち込めていれば写真どころではない。

 最近、宿泊はほとんど山小屋のお世話になっている。こんな日は、山小屋のありがたさをつくづく感じる。若いころはテント泊が常識で、山小屋なんて考えもしなかったが、いまは、テントで寝るなどというのは頭の中にない。温かい食事と、足を伸ばして寝られるだけのスペースがあるのはうれしい。2食付で、1万円ほどで宿泊できるのは感謝である。

 山小屋にはたいていは乾燥室もある。こんな日には、乾燥室はレインウェアや濡れた衣類が、所狭しと干されている。自分の干し場を確保するのが結構大変だ。赤や青、黄色などよく似た色ばかりなので、取り間違いもあるらしい。が、ともかく濡れたものは完璧に乾かせるのでありがたい。

 不況とか、震災の影響で自粛ムードとか言われてはいるものの、山小屋は山ガールから中高年登山者まで、それなりに混んでいた。

 ある山小屋でふと見ると、売店の棚にカップヌードルが置いてあった。それも最上段。ビールや日本酒、ジュースなどよりも上であった。なんだか堂々としていて、誇らしくもあった。こんな日には、温かいカップヌードルがうれしい。
多くの登山家や探検家も、厳しい環境下で、このカップヌードルで人心地ついたのではないか。そんなことを思い浮かべながら、スープをすすった。
 春から数えて、私の北アルプス登山での連続悪天(吹雪、雨)記録は、10日となった。雨男と揶揄され始めたらしい、

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。