- 第325回 -  筆者 中村 達


『久しぶりのフライフィッシング』

 梅雨の合間のフライフィッシングだった。ここ数年、滋賀の渓流では釣果はさっぱりだった。言い訳だがびわ湖に異常繁殖しているカワウによって、渓流魚は激減しているらしい。仕方なく半ば諦め気味で、管理釣り場でもと考えていた。そこへたまたま釣り仲間から「川に行きましょうよ」と誘いがあった。
 管理釣り場用のタックルを渓流用に変えた。管理釣り場、つまり釣堀用であればロッドは6番か4番で、やや長めのもの。フライも適当に用意しておけばいいし、足らないものは、売店でも購入できる。服装もジーンズで大丈夫だ。

 しかし、渓流ともなればそれなりの準備をする必要がある。タックルはやや短めの3か4番のロッドを数本。フライもドライ、ウェット、ミッジなどと少しややこしい。フライ用のベストに、フライボックス、リーダーホルダー、フォーセット、ドライディップ、ナイフ、ライトなど、さまざまなものを詰め込んだ。数多いポケットに何を入れればいいのか、思い出すのに少々時間がかかった。
 車に荷物を積み込んで出発しようとして、ウェイダーを忘れているのに気がついた。危なかった。

 途中のコンビニで弁当を買って、1時間少々走ると目的の川に着いた。地方に住んでいるとアウトドアフィールドが手近にあるのがいい。東京だとこうはいかない。
 集落にある喫茶店で遊魚券を買い、川底に降り立った。とりあえずロッドは4番の7.6ft。フライはドライで、14番のカディスが定番だろう。ところが昨年までは、14番であればティペットは苦もなく針穴に通ったのに、どうもうまくいかない。老眼がすすんだようだ。あきらめて、糸通しを使った。このあたりが面倒くさい。余談だが糸通しは、100円ショップで購入している。これが使いやすい。それに渓流ではよく紛失するし、専用のものは結構高い。


 何とか準備ができ、釣りはじめた。なんとなく今日はいけるような気がした。しばらく川底を歩きながら振っていると、パッシッとヒットした。引き寄せてみるとウグイだった。少しがっかり。遡行しながら釣り歩いていると、アマゴとニジマスが連続してヒット。

 土手の上からリリースした私を見ていた地元の老人が「もったいない」と言った。すかさず仲間が「また釣らしてもらって楽しみますから」とこたえた。老人はにっこり微笑んだ。


 今年は「釣りガール」がブレイクするといわれているようだが、こと、フライフィッシングに関してはそんな気配はまだ感じない。フライの専門店も少なくなっているようだし、量販店でもフライのコーナーは縮小気味だ。ブラピが主演した映画「リバー・ランズ・スルーイット」がヒットした頃が懐かしい。
 10年ほど前のことだが、米国では女性の間でフライフィッシングが静かなブームになった。ラインを繰り出すフォームが優雅だというのが理由のひとつだった。それにストレスの解消にもいいとされた。しかし、フライフィッシングを渓流で行うには、それなりにトレーニングをしなければ難しい。私の経験では、2年間は釣りにはならないような気がする。だから参加人口がいまひとつ伸びないのだろう。

 この日、アマゴが4匹、ニジマス1匹、ウグイは数え切れずという釣果だった。釣れる川があった。釣りは釣れてこそ楽しい。忘れかけていたフライ心に火がついた。しばらくご無沙汰だったタイイングにも、のめり込んでいきそうな予感である。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。