- 第323回 - 筆者 中村 達
『雨の日の比叡山山麓トレッキング』 比叡山延暦寺の老師の案内で、日吉大社西本宮本殿や天台真盛宗総本山の西教寺などの古刹を訪ね歩いた。 比叡山といえば伝教大師最澄上人が開いた延暦寺で知られている。延暦寺の所在地は大津市だ。恥ずかしながら滋賀に移り住むまでは、京都だと思い込んでいた。 京都では北に向かって右に比叡山(848.3m)、左に愛宕山(924m)が市中を見下ろすように聳えている。いずれも1,000mに満たない低山だが、堂々たる山容だ。愛宕山に登ったのは中学1年生だった。夏に登ってバテバテだった。一緒に登った弟は、この疲れかどうかわからないが、入院する羽目になった。その後、愛宕山は数え切れないぐらい登っている。高校の山岳部のトレーニング山行といえば、愛宕山だった。 比叡山の山頂は滋賀と京都の県境にある。私が山らしい山に登ったのは、比叡山が最初だった。小学6年生の頃、塾の山好きの先生に連れられて登った。山中越えの細い山道で、牛に出会って驚いたことがあった。いまでも、鮮明に記憶の中にある。 この日、台風の影響で朝から雨だった。途中から雨に降られるのはあまり気分のいいものではないが、スタートから雨だと覚悟ができていて、それはそれで楽しい。いまどきのレインウエアと傘があれば、雨に日もさほど気にはならない。 深い森の新緑が一段と深みを増していた。頂上を目指すピークハンティングや、縦走とはまったく違う「歴史の道トレッキング」は、山頂が目的ではなく、自分自身の中にあるように感じた。 何よりも老師による卓越した解説は、信長による比叡山焼き討ちや、明智光秀のゆかりの寺のことなど、史的好奇心をかきたてた。歩きながらその時代の出来事がリアルに思い浮かんだ。こんな自然体験もおすすめである。 そして、比叡山千日回峰行を2度達成された、酒井雄哉大阿闍梨が住職をされている飯室不動堂では、大阿闍梨からご加持うけ、直接お香水をかけていただいた。感動とともになんだか、とっても幸せで、ありがたい気分になった。 どっぷりと日本の和の文化、森の文化に浸った雨の日のトレッキングだった。 (次回へつづく)
■バックナンバー ■筆者紹介 中村 達(なかむら とおる) 1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー 安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。 生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。 |