- 第318回 -  筆者 中村 達


『自然体験と震災と』

 上越にある自然学校を訪ねてきた。東日本大震災の影響で周辺部のホテルや旅館、ペンションなどは予約がすべてキャンセルになって、GWの問い合わせもない状態が続いている。その自然学校が主催するバックカントリーキーやアウトドアプログラムは、全滅だそうだ。新潟県には柏崎原発があるからという、まるでトンチンカンなキャンセル理由もあると聞いた。私たちには補償はないのでしょうねと、責任者は肩を落としていた。

 立山の山小屋に連絡を入れてみた。「お客はこないでしょうね」という諦めを通り越して、開き直るしかないという感じだった。例年ならGW以降、雪の回廊を見学しにやってくる、東アジアからの観光客は、少なくとも今年は激減することだろう。

 ところで、この大震災から私たちも学ぶことが大変多いように思っている。電気が止まって、いかに無駄な電気を使っていたかと、反省することしきりである。それに余計なものがありすぎる。フランス人が日本の家屋に住むと、広さは3倍になる。逆に日本人がパリに住むと、居住空間は3分の1になる。パリで留学中の愚息がそんなことを言っていた。

 よくよく考えてみれば、アウトドアではダウンサイズでローインパクトが基本だ。荷物はいかに少なくして、食料も軽量で、なおかつ少量でカロリーの高いものを、選択しなければならない。燃料も効率のよいものを選び、省エネに苦心する。夜は早く寝て、日が昇るとともに行動をおこす。そんなあたりまえのアウトドアでのライフスタイルの考え方が、これからの私たちの日常生活でも必要な時代になるのではないか。

 ローインパクトなライフスタイルは、大人になってから後天的に獲得するのは、価値観の転換をしなければならないので、それなりに難しい。だから、子どもの頃からの自然体験が大切だと思う。アウトドアでの生活は、常にダウンサイジングに心がけた、ローインパクトなスタイルがベースになる。
 活断層の上で生活している私たちは、この緊急事態に遭遇して、ラジオを買いに走ったり、ヘッドランプを探したりとバタバタになりがちだが、自然体験活動を日常的におこなっていれば、さほどあわてることはない。
 知人の登山家が「山屋の楽観主義がこんなときこそ必要だ」とも言っていた。日常的なのアウトドア体験から出た名言だと思う。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構副代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。