- 第317回 -  筆者 中村 達


『水とラジオとヘッドライト』

 震災のあと九州に出張中の東京の親戚から、水を送ってほしいと電話があった。マンション住まいで水の臭いが強くて、飲用には普段からミネラルウォータを買っているらしい。首都圏では2Lのペットボトルが手に入らないというTVの報道を見て、あわてて連絡してきた。
 滋賀でも水は手に入りづらくなっている。スーパーやコンビニには、被災地に優先して回している、と張り紙があった。何軒かを回って、何とか買い求めることができた。実のところ、買いだめをしているようで恥ずかしかった。その水を持って宅配センターに行くと、同じ様な人が長い列をつくっていた。普段では、決して見ることができない光景だった。食料や水などを首都圏や被災地に、送り届ける人たちばかりだった。

 知人からはラジオを送ってほしいと言ってきた。停電中の情報入手手段はラジオしかない。今度は、家電量販店やホームセンターなどを回る羽目になった。4件目の家電量販店で、ようやく店頭展示品を見つけた。しぶる店員に、頼み込んで売ってもらうことができた。これが最後のラジオだった。そのあと、隣接するスーパーの家庭雑貨のコーナーで、950円のラジオが数多くぶら下がっているのを見つけた。

 計画停電の影響や被災地を優先しているので、ランプ類も店頭にはほとんど見当たらない。以前から、私のもっているヘッドランプが古くなったので、LEDのものに買い換えたいと思っていた。アウトドアショップや登山用具店でも在庫がゼロで、入荷の見通しはないという。これからの予定もあるので、少し心配になってきてネットで調べてみた。WEB通販でも在庫は逼迫しているようだが、探しているうちに長野県の白馬村のネットショップに、米国製のものがあった。発注して翌々日には手元に届いた。

 震災者の支援に何か出来ることはないかと思うのだが、いま、私にできることは、せいぜい寄付ぐらいしかない。あらゆるシーンで、できる範囲で寄付をしたいと思っている。
 いま、あらゆる事業が中止や延期に追い込まれている。東京での会議やシンポジウム、あるいはフォーラムといったものも、大半が中止である。役員をしている公益法人の理事会なども延期となってしまっていることが多い。
 ポッカリとスケジュールに穴が開いたが、山を登る気にもならないし、まして、スキーなどとてもとても、という心境だ。仕方がないので、フライでも巻いて気を紛らわそうと、足らないツールを買いに近くの釣具店に出かけた。そこには、何と、LEDのランプ類が数多くぶら下がっていた。まさか、釣具店にライト類があるとは普通は考えない。思わず苦笑した。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構副代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。