- 第305回 -  筆者 中村 達


『全国トレイルフォーラム in 高島』

 滋賀県高島市のマキノ高原で、「全国トレイルフォーラム in 高島」が開催された。高島市はびわ湖の北西部にある。北は福井、西は京都と接していて、その県境に中央分水嶺が走っている。中央分水嶺とは、北海道の宗谷岬から鹿児島の佐多岬まで、日本列島縦断するおよそ5000kmの長い稜線のことだ。雨や雪解け水がこの稜線で、東西あるいは南北に分かれて流れるので、分水嶺と呼ばれている。分水界とも言われる。
 この中央分水嶺に高島市が80kmのトレイルを開通させた。3年前のことだ。地元の関係者やボランティアがこのロングトレイルの整備に情熱をそそいだ。そして、いまは高島トレイル運営協議会(http://www.takashima-trail.jp/)が設立され、トレイルの管理と運営を行っている。

 地域観光の活性化が目的のひとつである高島トレイルは、関係者の努力によって、いまや全国でも屈指のロングトレイルとして知られるようになった。今年に入ってトレイルの利用者は4万人を下らないと、協議会の幹部は胸を張る。

 この協議会が全国のトレイル関係者に呼びかけて、フォーラムが開催された。私も参加させていただいたが、各地のトレイルからの発表を聞いて、ようやくこの国でも「トレイル」が市民権を得たように感じた。
 そして、ここ数年の間に、確実にステップアップしたように思う。それは、人々の健康や自然志向が比較的容易に満たされ、登山よりもやさしそうで、山旅のイメージが時代のニーズにマッチしたからだろう。

 一方で、だからというわけかどうかはわからないが、翌日に行われたトレッキングに。装備に不安な参加者もあった。簡単でやさしそうだというトレイルのイメージと、山は常に危険と隣り合わせという現実との乖離をどう埋めていくか、という課題も見えてきたように思う。フォーラムの基調講演が、トムラウシ山遭難事故から学ぶ「一般観光資源としての安全なトレイル」だっただけに、リアリティがあった。

 シンポジウムで「トレイルは子どもたちの自然体験の場としての意味もある・・・子どもたちを体験させないと、トレイルは持続可能ではない」という趣旨の発言をさせてもらった。手前味噌だがこの種のシンポジウムでは、ほぼ同じフレーズをどこかで入れさせていただいているが、参加者の相槌や頷きが、最近特に増えたような気がする。シンポジウムが終了した後、同感ですと、声をかけてくださる回数も増えて心強い。

 いま、全国でロングトレイルの整備が進んでいる。主題は観光活性化だが、そこには地域の活性化や自然環境保全だけでなく、次の世代、なかでも子どもたちにトレイルを体験させるという教育視点も必要だ。限定された地域に還元されるだけでなく、社会全体にどのように貢献していくかということも、持続可能なトレイルのために、必要十分な条件となってくるに違いない。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構副代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。