- 第304回 -  筆者 中村 達


『熊よけ鈴』

 熊よけ鈴(熊ベルなどとも呼ばれる)が売れているらしい。今年は全国各地で熊の出没が相次ぎ、事故も多発した。そこで登山者や釣り人など、山に入る人たちの必需品となった。
 個人的には、この熊ベルは好きではない。山でリュックサックにつけている登山者によく出会う。チャリンチャリンという音がうるさいし、せっかくの山の静寂が打ち消される。それに、鈴の音で歩行のペースが乱れる。だから、私は少なくとも登山では鈴はつけたことはない。
 数年前に、トレイルのイベントがあって、参加賞として熊よけ鈴をもらったが、フィッシングベストにつけたままだ。

 熊は人間を察すると、熊のほうから逃げていくといわれている。熊に襲われるのは、予期せずに鉢合わせになったとき。山菜取りに夢中になっているときや、渓流で、岩影でお互いが見えずに出くわしたときなどがヤバイ。このときはすでに手遅れだそうだ。
 だからこそ、こちらの存在を知らせるということで、熊よけ鈴の意味があるのだろう。人にたずねられれば、単独行で、登山者の少ない山に登るなら、安全のために薦めるとは思う。

 しかし、個人的には長年毛嫌いしてきた熊よけ鈴を、いまさら付けるのには、何かしら抵抗するものがある。自然の中では、できる限り静かにしていたいと思うからだ。
 そろそろ熊も冬眠に入る頃なので、これからは少しは安心して山に入れる。なんとか今年も、熊よけ鈴のお世話にならずにすみそうだ。ただ、熊のことで、生物多様性を少しは身近に感じられる秋ではあった。来春は熊よけ鈴を付けるかどうか、悩ましいところである。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構副代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。