- 第300回 -  筆者 中村 達


『生物多様性』

 いま、名古屋でCOP10が開かれている。COP10は、「地球の様々な生きものをどう保全するかを議論する、国連地球生きもの会議」のことで、Conference of the Partiesの頭文字をとっている。余談だが、この COP10が何の略なのか、ほとんど報道されていないので、よくわからなかった。
 COP10の目的は、生物の多様性に関する条約、つまり生物多様性条約をまとめることが主題である。この生物多様性条約は、1992年に採択された環境条約で、①多様な生物を、生息する環境とともに守る②生態系の恵みを持続的に使う③遺伝資源が生み出した利益を原産国にも配分するが、目的とされている。

 生物多様性(biodiversity, biological diversity)という言葉は、正直なところさほど馴染みがない。「生き物を大切にしよう」とすればいいのだが、これでは権威やアカデミックさが欠けそうなので、こう言ったほうがなんとなく賢そうに聞こえる。
 それでも連日会議の様子が報じられたり、新聞やTVなどでも生物多様性の特集が組まれているので、おぼろげながらわかったような気になってくるものだ。

 生物多様性の保全とは、3000万種ともいわれる生物種と、それらによって成り立っている豊かな生態系を守ろうということ。だから、ブラックバスなどの外来種が入り込んでくると、生態系がかく乱されて、多様性が保てないことになる。毎年4万種ほどの生物が絶滅しているそうだ。
 また、遺伝資源が生み出した利益を、原産国にも配分する際の取り決めなども協議されている。この問題は、まさに各国の利益が絡む政治問題で、解決の糸口を見出すのはなかなか難しい。

 ところで、COP10での生物多様性の論議は、地球規模や政治的な駆け引きもあって、正直なところ私たちの日常生活と、直接かかわりがあるようにも思えない。
 身近なもののひとつに、びわ湖の外来種の増加で、固有種が激減しているといわれているし、その駆除も行われている。しかし、私たちに何ができるかとなると、私の頭ではいい知恵が浮かんでこないのだ。私がフライフィッシングでバスを釣り上げても、いまさら解決できるレベルの問題ではない。
 ただ、COP10は、人間の手で破壊されつつある地球の環境を考えてみる、いい機会にはなった。

 生物多様性という言葉の意味を考えていると、なぜか、「般若心経」が浮かんできた。紀元300~400年に著されたという266文字の本文に、大乗仏教の心髄が説かれているとされる、お経である。その中に、色即是空(しきそくぜくう) 空即是色(くうそくぜしき)という一節がある。 「形あるものはそのままで、実体がない。 実体がないことが、形あるものとなっている。」。すこし難しい。意訳では、「一切は自分があるようで無い。すべては 一つなのだ。この世のさまざまな因果の法則は、増えもしなければ減りもしない」となるのだそうだ。これでも、まだ、わかりにくい。

 作家の新井満さんが、もっとわかりやすい自由訳で「・・・あなたは、たった一人でこの世を生きているわけではない。・・・あなたをとりまいている虫や花や魚や鳥や馬や牛や虎や犬や猫や蟻や象や蝶や樹や森や岩や月や星や太陽やとともに生きているのだ。その中のたった一つのいのちが欠けても、この世は成りたたない。・・・」(『自由訳 般若心経』新井 満 より)
 「般若心経」は、まさに生物多様性が、説かれているように思った。いまから1700年も前にである。
 念のために友人の京都南禅寺の和尚にたずねてみると「そのとおり」、という答えが返ってきた。東洋の英知である。

(次回へつづく)


■バックナンバー

■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構副代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。