- 第298回 -  筆者 中村 達


『自転車修理のこと』

 ようやく秋めいてきたので、ガレージに古いテントのフライをかぶせてあったMTBを取り出した。かれこれ1年ほどは乗っていなかった。機械ものは、使わないとだめになるのとおり、ギアは変速できないし。タイヤはすっかり空気が抜けていた。
 それなりに高価だったMTBだが、20年近くも前に手に入れたものだけに、さすがに経年劣化は隠せない。それでも、油をさして磨き始めるとそれなりに綺麗になった。

 しかし、高速側のギアにチェーンが移動しない。整備の方法は、かつて教えてもらったはずだが、すっかり忘れてしまっていた。インターネットで検索して調整の方法をみつけて、何とか変速機も正常になった。空気がすっかり抜けていたタイヤも、フレンチバルブの空気の入れた方を、これもネットで調べて、適正圧まで入れることができ、走れる状態になった。

 この自転車を手に入れた頃はMTBが大ブームで、自転車ショップの店頭はMTBであふれていた。米国ブランドを筆頭に、国産のものも人気があった。競技用から紛い物まで、自転車といえば、ともかくMTBという時代であった。
 また、各地で大会や講習会、展示会などのイベントもたくさん開催され、MTB関連の専門誌やハウ・トゥ本も数多く出版されていた。
 このブームに煽られて、私も3台ほどオーダーした。そのうちの2台は、行方は定かでない。たぶん誰かに譲ったような気がする。手元に残ったのが、この1台というわけだ。メーカーの担当者が、「このMTBは高価ですから街で乗らないほうがいいですよ、盗難にあいやすいです」。などと言ったものだから、さほど走っていないように思う。

 久しぶりにMTBで走ってみた。走っているうちに調子は出てきたが、長い間乗っていないので、いまひとつのような気がしてきた。そこで、この際整備してもらおうと、近くの街にある自転車店に向かった。
 店の前にはママチャリが数台と、車椅子が5.6台ほど並べてあった。店の中もママチャリと、介護用の自転車用品?ばかりだった。20年ほど前に訪れたときには、高価なMTBやATBがところ狭しと展示されていた。若い人たちの出入りも多く、賑わっていた。

 椅子に座っていたおじさんにMTBの整備について尋ねてみると、「私は店番でよくわかりません」。仕方がないので、このあたりに他の自転車店はありますか、とたずねると「ありません」。そして、「自転車はいまや消耗品で、1万円以下で買えますから、修理して大事に使おうなんていう人は少ないです。それに自転車は、量販店やスーパー、ホーム・センターで買いますから、町の自転車店はさびれる一方です」と、悲しい言葉が続いた。

 健康志向で自転車が静かなブームが続いている。店番のおじさんに教えられるまでもなく、輸入の自転車は、8,000円前後でも売られている。整備や修理をするより買い換えたほうが安上がりなのかもしれない。
 結局、私のMTBは車に積んでメーカーに持ち込むか、自分で整備するかしか方法はないようだ。
 街の自転車店が姿を消し、GMSなどで大量に消費され、故障すれば買い換えるというのが実情のようだ。自転車好きのおじさんやオニイサンが、講釈を垂れながら一生懸命に修理してくれた情景は、見られなくなるのかも知れない。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構副代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。