- 第287回 -  筆者 中村 達


『近頃のアウトドアマーケット』

 景気が良くない、少子高齢化などが理由で、スポーツ用品の市場は低迷が続いている。
 スポーツ用品の出荷市場(矢野経済研究所)によると、ゴルフ、スキー、テニス、マリンスポーツなど、多くの分野でマイナス成長が続いている。そんな中で、アウトドアズは比較的堅調だ。数パーセントではあるが市場は拡大している。2010年のアウトドア用品の出荷市場は1,400億円程度と予測している。出荷市場だから、小売市場に換算すると2,500億円程度と思われる。この中には、トレッキングシューズ、ウェア、パック、テント、コンロなどが含まれている。

 アウトドア市場が拡大しているその理由のひとつが、若い女性の参加だろう。これは、明らかに顕著な動きで、アウトドアの専門店で聞いてみても、トレンドは「山女」らしい。
 郊外のハイキングコースでも、ロングトレイルでも、アルプスの山稜でも若い「山女」が目立つ。推定年齢で30~40歳。誰もがお洒落でカッコよく見える。叱られるかもしれないが、中高年登山者のファッションとは、明らかに一線を画している。
 先日、佐渡島の山を歩く機会があったが、そのときも単独行の「山女」にお目にかかった。元気でイキイキとしていたのが、とても印象的だった。
 専門誌もそんな彼女たち「山女」を意識した誌面構成が目立つようになった。アウトドアアパレルメーカーも、彼女たちをターゲットにした商品開発をおこなっている。

 当面、このアウトドアマーケットは「山女」が牽引していくのではと思う。それに比べて、若い男たちはどこで何をしているのだろうか。
 ただ、「山女」ブームはいつまで続くか、だれも予想はできない。
 一方、アウトドアファッションの陰に隠れて、テントやシュラフなどのキャンプ用品は低迷しているようだ。テントを担いで山に登る人たちは、かなり減少している。アクセスが良くなって、日帰りトレッキングや登山が可能エリアが大きく広がったのも理由だろうが、重い荷物を担いで歩くというのが敬遠されているのではと思う。山小屋やヒュッテなどの宿泊施設も近代化されているので、わざわざテントで寝なくても、という心理もある。


 ある休日、近くの公園を歩きに出かけた。五月晴れで爽やかな日だった。たくさんのファミリーが、ピクニックにきていた。広い芝生でボールで遊んだり、ゲームをしたりと、穏やかで楽しいそうな休日だった。そんな広場を見渡してみると、端っこで、テントが並んでいるのが見えた。簡易型のもので、ホームセンターでは1万円前後で売られているものだ。サンシェードか、休憩用かはわからないが、テントはいまやこんな形で使われている。このようなところで需要が発生しているのは、なんとも面白い。
 「アウトドアグッズや登山用品は、山から街へと広がる」というのが私の持論だが、まさにそんな風景だった。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構副代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。