- 第286回 -  筆者 中村 達


『安藤百福記念 自然体験活動指導者養成センターが竣工』

 長野県の小諸市の高台に「安藤百福記念自然体験活動指導者養成センター」(略称安藤百福センター)がオープンした。5月21日に竣工式が行われ、政財界の関係者や村井長野県知事などほか、自然体験・アウトドア業界から多数の出席者があった。
 施設の理念や概要はhttp://momofukucenter.jp/で詳しく紹介されている。

 さて、この国で自然体験活動の必要性は、従前より広く認識されていて、官民あげてさまざまな取り組みがされてきている。 しかし、自然体験活動が画期的に広まっているかといえば、そうではない。現実的には、総合的学習時間の一環で、自然体験活動が組み入れられてはいるものの、学力が優先され、結局は尻すぼみに終わってしまう雰囲気だ。
 一方、若者たちの自然離れは顕著で、特に山登りは目を覆うばかりだ。先日、信濃毎日新聞に信州大学の山岳部に新人が7人入った、という記事が大きく掲載されていた。山岳部に新入部員も7人入ったということが、大見出しになる時代なのだ。
 また、スキー・スノボーの出荷市場は、推定でわずか500億円程度となって、参加人口の極端な低迷が続いている。ウィンタースポーツの代表ともてはやされたスキーは、いまや衰退期に入り、若者たちからすっかり見放された。他のアウトドアアクティビティティも似たようなものだ。

 私事で恐縮だが、これまでアウトドアマーケティングの視点から、ここ30年ほど、さまざまな活動を行ってきた。1万人のオートキャンプ、アウトドアフェスティバル、見本市、アウトドア用品の輸入促進、シンポジウムやフォーラム、ロングトレイルの制作運動、もちろん執筆活動も。力不足の感は否めないが、ブームに乗ったこともあったし、少しは市場刺激できたかもしれない。しかし、この国の自然体験やアウトドアズは良くなったとはいえない。
 そこで、結局たどり着いた結論は、指導者の育成である。教育に尽きると思う。一方で、車の両輪のように、指導者が社会に認められ、職業としても成立する制度設計も大きな課題である。

 安藤百福センターの最大の目的は、「指導者の指導者」を育てることである。自然をよく知り、登山やパドルスポーツなどのアウトドアアクティビティに特化したスキルを、何かしら一つはもっていること。バードウォッチングやMTBなども、それに含まれる。
また、環境教育の知識やインタープリテーションの技能を、取得していること。ある意味ではプロの領域かもしれないが、そんな指導者をこの10年間で3,000程度は育成したいというのが、最大のミッションである。

 竣工式には、自然体験活動推進協議会のメンバー、環境教育のインタープリター、日本山岳ガイド協会やスキー連盟の関係者、大学や専門学校の先生など150名が出席された。このような人たちによって、これからこの国の自然体験活動とアウトドアズの指導者が育成される。5年後、10年後が楽しみである。きっと大きなムーブメントになると確信している。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構副代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。