![]() ![]() ![]() - 第285回 - 筆者 中村 達
『フライフィッシング』 フライフィッシングに出かけてきた。東京からフライをやってみたいという知人の親子がやってきた。フライは全く初めてだという。 事前にフライを巻いてみた。しばらく巻いていなかったので、手順を忘れていたり、出来上がりがもうひとつだったで、マニュアルを見直してみて、なんとか20個ほど完成した。 フライフィッシングの面白さは、自分で巻いた疑似餌に魚がアタックして、それを釣上げるところだろう。フッキングしたときの興奮は、何度経験しても褪せることがない。 この日、ようやく五月らしい初夏の陽気になった。びわ湖の北西部にある馴染みの管理釣り場へ出かけた。池をとりまく木々の新緑が美しい。 日曜日というのにお客は他に1名だけで、ほとんど貸切り状態だった。東京ではとても考えられない状況に、知人は驚いていた。知人とその子、といっても大学生なのだが、少し手ほどきしたあと、彼らは見ようみまねでロッドを振りはじめた。理屈より慣れるほうが早い。 早速、ラインとリーダーが絡みついた。これに、じーっと耐えながら、絡みを解いていくのが大変だが、ここでさじを投げ出すと前には進めない。どうやらこの親子は、まずはこの試練をなんとか乗り切っているようだ。 しばらくして、父親のフライにヒットした。25cmほどの虹鱒だ。顔を見るとアドレナリンが分泌しているのがよくわかる。しばらくするとまたヒット。こうなると面白い。 息子の方はといえば、まったく魚が寄ってこない。昼食を誘っても「1匹釣上げるまでは、食べません」と返ってきた。 粘り強く、諦めずにキャスティングを繰り返していると、ようやくヒット。うれしそうな顔がとてもいい。男の子はやはり肉食系でなければ、とこんなときそう思うのだ。続けて2匹目がヒット。興奮状態が続いた。 もちろん管理釣り場だけあって、だれだって釣れるといえば釣れるのだが、それでも釣れれば嬉しい。ましてはじめてのフライであれば、なおさらである。 ![]() 釣り人口も、一時と比べると下火になったように思う。びわ湖周辺でも、少し前まで大勢の釣り客、なかでも、若者たちのバス釣りをよく見かけたが、最近ではその数も減ったようだ。もちろん私の感覚的なものなので、さしたる根拠もないのだが、目に付かなくなったのは確かだ。 遊びの多様化、人口の高齢化による参加人口の減少、不景気など、さまざまな要因があるのだろうが、それだけではなく、若者たちの草食系の増加にも理由があるような気がする。 自然保護や動物愛護の観点から、動物の捕獲は禁止されている。鹿や熊などの動物の狩猟は、法律で特に厳しく管理されている。そんな中で唯一、人間が捕獲できるのは魚だろう。もちろん、河川や渓流には漁業組合があって、禁漁期間も設けられているし、解禁時には遊漁券や入川券を買う必要がある。しかし、ルールさえ守れば、原則、だれでも釣りができる。 釣りは人間が捕食するという本能を確認できる、もっとも簡単な手段のように思える。だからヒットしたときには、アドレナリンがからだ中を駆け巡る。 日が傾く頃、水面にトビゲラが飛びはじめた。レッスンも一段落したので、カディスで試してみると、すぐにヒットした。続けさまに5匹。これがマッチ・ザ・ハッチ。だからフライはやめられない。たとえ管理釣り場でも。 (次回へつづく)
■バックナンバー ■筆者紹介 中村 達(なかむら とおる) 1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構副代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。 生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。 |