- 第283回 -  筆者 中村 達


『おじいさんと孫でハイキング』

 身体のコンディションを整えるために、時々近くの山に登ることにしている。特に出張が続いたときなどは効果的だ。登る時間や、息の切れ方で自分のコンディションがわかる。登る山はもっぱら三上山(通称近江富士432m)だ。登り35分、下り25分が、私の標準タイムである。この日は、出張から帰ってきた翌日だったので、ややスローペースで息が切れないように歩いたため、45分かかった。

 三上山はピラミッド伝説にも登場してくる山で、ほぼ三角形の山容をしている。3つあるコースのどこから登っても短時間に山頂に立てるが、急勾配なのでそれなりにしんどい。息を切らしながら登ってくるハイカーによく出会う。関西では有名な山で、平日でも登りにやってくる人は多い。
 この日、天気がよかったので、山頂はにぎわっていた。地元の家族連れや、子ども会のグループが訪れていた。琵琶湖を遠望しながら、お弁当を食べるというのが、いつもの風景である。

 この日、目についたのは、おじいさんと孫のペアだった。何組ものおじいさん、孫の2人連れに出会った。中高年登山の経験が孫連れとなったのか、昔とった杵柄かは想像するしかない。子どもたちの親ではないのは確かだ。ともかく、おじいさんと孫のペアを、これほど多く目にしたのは初めてだった。

 労働環境が変化して、共稼ぎの夫婦が増えた。サービス業に従事する人も増え、土日が休日ではない人も多い。だから子どもたちの休日に、親たちが付き合っていられない状況が生まれている。それに、30~40歳台はアウトドアの体験が少ない、といわれる世代だから、なおさら、子どもたちを自然のなかに連れて行く機会も減っているのかもしれない。

 そんなわけがあるのかどうかは定かではないが、おじいさん、孫にペア・ハイキングはなんだか微笑ましくもあり、ホッとする風景でもあった。
ただ、おじいさんの足元がやや不安な姿も見かけた。先行する孫が、何度も振り返りながら気遣いを見せていた。

(次回へつづく)


■バックナンバー

■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構副代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。