- 第278回 -  筆者 中村 達


『ストックのこと』

 八甲田山ではもうひとつ失敗があった。それはストック。深く考えずにゲレンデ用のストックを持参したのだ。登りになるとリングの小さなストックでは、雪に深くもぐりこんで、支点の役割が果たせない。ツアーの参加者たちは、山用の大きなリングをつけていた。リングの小さなストックでは、推進力をつけることが出来ず、無理な力が必要だった。余計な運動をしなければならないので大汗をかいた。なんとも無様なことであった。


小さなリングは山スキーには不向き

山スキー用のブーツ、ビンディング、ストック

 自宅には山スキー用のストックが3セットもある。それにトレッキングポールを加えると、10数本はある。ついつい衝動買いをして、増えてしまった。

 さて、トレッキングポールだが、私はスキーストックと同じ形状のものを使用している。私の山仲間も同じだ。ところが、アウトドアショップやスポーツ量販店のトレッキングコーナーでは、T型のステッキが幅を利かせている。店によってはT型ばっかりというところもある

 山を歩くと、特に中高年者に多いのだが、一様にT型のものが目に付く。これは日本独特の現象で、欧米ではほとんど見られないと言っていいだろう。平坦な道を杖代わりに用いるにはいいのかもしれないが、起伏の大きな山岳地では、安全性にも問題があるのではと思っている。特に下りでは支点としては使いづらい。
 店頭でスタッフになぜT型ばかりなのかと聞くと、首をひねって、売れてますから、という答えが返ってきた。他の店でも同じだった。当たり前のように並んでいるのを見ると、腹が立つこともある。ショップのスタッフに使ったことがあるのか聞いてみたくなったが、アルバイト風だったのでやめておいた。

トレッキングポールを使って歩く

 ストックを使う理由は、積極的に歩き、そして安全に登降するためだ。Wストックで少し慣れてくると、まるで4本足のように歩くことができる。T型のステッキではそうはいかない。アウトドアショップやスポーツ量販店では、売れているからという理由だけでなく、それぞれ長所と短所をしっかり説明する必要がある。
 アウトドア用品では、ほかにも似たようなことがある。紐やテープがやたらに多いリュックサック、切り返しの多いパーカー、ガスボンベの規格の異なるコンロ・・・。

 アウトドアファッションが人気でよく売れているそうだが、フィールドは街中らしい。若者たちは山から離れ、アイスアックスの固定ベルトが付いたパックを、お尻のあたりまで下げて歩いている。減少気味とはいえ、山では相変わらず元気な中高年者がT型ストックを持って歩いている。なんだか不思議な風景だと思うのは、私だけだろうか。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構副代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。