- 第273回 -  筆者 中村 達


『今シーズンのスキー事情』

 長期予想に反して年末からの大雪で、国内のスキー場は例年以上の積雪があり、ほとんどが滑走可能となっている。スキーは12月の初旬にスキー可能となるかどうかで、入り込み客の動向を大きく左右する。滑走可能となれば、スキーファンがいち早く訪れる。今シーズンは12月の後半になって降雪があったが、もう少し早く積もっていれば良かったのにという声が聞こえてきた。11月末から人工雪でゲレンデをオープンさせた長野県のあるスキー場は、昨年対比で200%の入り込み客があった。リフト待ちは最高で30分を越えたそうだ。こんなことはバブル時代以降はじめてではないか。降雪が遅いと、このような現象が時としておこる。
 しかし今シーズン、ほとんどのスキー場は大変苦戦していると言っていい。もうすぐバンクーバー冬季五輪が開かれる、というのにである。
 この正月もスキー客は大幅に減少した。昨シーズン対比で20~30%ダウンが相場だそうだが、実質的にはもっと減少幅の大きいスキー場もある。ここ何年もスキー客は減少傾向が続いていて、それに追い討ちをかけるような大幅減だから、かなり深刻な問題となってくる。
 さらに悪いことに、不況と報道されるので、訪れたスキーヤーの財布の紐が、いっそう堅くなって、一人当たりの客単価が下がっている。食事にしてもコンビのおにぎりや弁当ですませたり、飲み物も持参するなど、生活防衛はゲレンデまで押し寄せている。また、宿泊日数を減らしたり、日帰りや車中泊をするなど、予算を抑えたスキースタイルが主流になりつつあるようだ。
 スキーは索道のほか、旅館やホテル、民宿などの宿泊業、レストランや食堂、レンタル、交通機関、それに用具・用品など裾野は広く、特にスキー場周辺の観光産業として地元経済や雇用に、大きく貢献してきた。

 ところが、今シーズンは不況で消費マインドが冷え込んでいるうえに、年末は高速道路の通行料1,000円の割引も適用されず、モチベーションはさらに下がった。大雪が降って雪の心配はないのだが、肝心のお客が少なくなっているのではどうしようもない。

 ここ何年か、スキーを屋根に積んだ車の姿をすっかり見かけなくなった。カー用品店でもスキーキャリヤのラインナンプは、随分少なくなったように思う。カービングスキーで板が短くなって、屋根に積まなくてもトランクやラゲッジルームで納まるという理由もあるのかも知れないが、それにしても少ない。

 実は今シーズン、まだ初滑りをしていない。今月中にはなんとかと思い、スキー道具を引っ張り出した。古くなった用品を買い揃えようと、スキーショップに足を運んだが、お客はどの店もまばらだった。スポーツの量販店でも同様で、スキー売り場の面積は年を追うごとに縮小しているような気がする。
 若い頃は年間で60日程度は滑っていた。その頃は、年中発行されていたスキー雑誌を見て、新しいスキー板を夏には予約したものだった。初雪が降ればそわそわして、早い年では11月のはじめには初滑りをしていた。
 そんな時代がもはや返ってくるとは思えないが、国内にはいまだ、500以上のスキー場があって、インフラはかなり整備されている。うまくシステムを整えれば、もっとリーズナブルにスキーを楽しむことが出来るのではと思う。スキーは人間が動力なしで、もっともスピードが出せるスポーツだ。それに、自然の中でおこなうアクティビティとしては、大変にすばらしいものだ。
 特に、冬の大自然を堪能するには、最適なものだと確信している。そんなスキーをいまの子どもたちに、ぜひとも体験してほしいと願う。行政とスキー場、スキー産業界、観光事業者などが協力し、もっと知恵を出せばリーズナブルで夢のあるスキームが組めはずである。子どもの頃のスキー体験は必ず、大人につながる。もちろんスキーが嫌いになる子どももいるだろうが、少なくとも半数の子どもたちは好きになる。

 今日、明日のビジネスも大切にしながら、同時に、この国のスキーをどのように未来に続けさせるか、そんなことも真剣に考えなければならない。
 国民のおよそ4人に一人が、スキーに出かけた時代もあった。異常といえば異常だが、そんな時代は子どもたちや若者たちに活力があったように思う。
※画像は本文とは無関係です

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構副代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。