![]() ![]() ![]() - 第270回 - 筆者 中村 達
『ダウンジャケットのこと』 今年はダウンジャケットがブームだそうだ。価格も安く、品質も一昔に比べると画期的にいい。ファストファッションなどの製品の中には、カラーも豊富でリーズナブルものも多く、それでいてフィルパワー(羽毛の復元力)は、500以上と高水準である。その上、かなり軽く270グラムなんていう製品もある。何しろ安い。 ダウンジャケット(ベストも)も、フリースやデイパックと同様に、アウトドア、正確には山から街に下りて、一般に広がった用品の一つだと思う。 私が初めてダウンジャケットを手に入れたのは、かれこれ40年も昔のお話だ。カラコルムに出かけるのに必要だと、当時35,000円もしたフランス製のものを、京都の登山用具専門店で買い求めた。国産のものもあるにはあったが、いまひとつだったように記憶している。大学卒の初任給が、30,000円に届かなかった時代で、親に無理を言って買ってもらった。 その後、徐々に普及し1970年代の半ばには、街中でも見かけるようになった。ただ、その頃は、価格の安いものほどフェザーの含有率が高く、肌触りは良くなかった。その上、シェルの性能もいまひとつで、羽が抜けて下に着ていたセーターが、羽だらけになってしまう、なんてこともあった。そんな時代を考えると、水鳥には気の毒だが、高性能で低価格の製品が市場に溢れているのは、まるで夢のようだ。 さて、街でアウターとして着るなら、どんなダウンジャケットでも用をなすが、アウトドアでは少し違うように思う。私の場合、ヒマラヤの高峰や、極寒の雪山などは別として、冬の国内のトレッキングや山歩きなどでは、ダウンジャケットはリュックサックの中に入れていて、休憩とテントや山小屋に入ったときに取り出して着用している。通常は発熱素材のアンダーに、おなじく発熱素材か透湿素材のシャツ。それに薄手のフリースと、アウターとしてパーカーを着る。ただ、気象条件によっても異なるが、行動中はパーカーを着ることはあまりない。さらにダウンジャケットにいたっては休憩時以外、行動中に登場する機会は意外と少ない。だから、山用にダウンジャケットを選ぶなら、軽量コンパクトが基本だ。薄手で軽く、コンパクトなダウンジャケットで、中間着的な着回しができるほうが、都合がいいように思う。 薄手で軽量なダウンジャケットは、外国ブランドを含むアウトドアメーカーから、数多くでている。カラーも豊富で、デザインもお洒落なものが多くなった。ただ、それなりの価格で、すぐには手を出せないでいたのだが、ファストファッションの270グラムを見て、思わず衝動買いをしてしまった。アウトドアモノの物欲煩悩には、困ったものだと思っている。 (次回へつづく)
■バックナンバー ■筆者紹介 中村 達(なかむら とおる) 1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。 NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。 生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。 |