- 第265回 -  筆者 中村 達


『八ヶ岳山麓スーパートレイルを歩く』

 八ヶ岳山麓を周回するトレイル『八ヶ岳山麓スーパートレイル』(http://ystrail.jp/)の一部を歩いてきた。八ヶ岳山麓の平均標高で1,000~1,500mラインを、およそ200kmにわたって選定された国内最長のトレイルだ。200kmといっても、新たにトレイルを整備したのではなく、既存のトレッキング道、登山道、林道、自然歩道、それに信玄の棒道などの歴史街道を組み合わせて、ロングトレイルとしてわかりやすく設定したものだ。
 しかし、地図上でトレースするだけでなく、実際に歩いて、この道が果たしてロングトレイルとして指定できるか、というフィールドワークに相当な時間がかかったようだ。そのため、地図にルートを書き込むまでに、構想から5年以上費いやしている。さらにその間、体験ウォークも幾度となく開催し、参加者の評価も設定の重要な判断基準とした。この体験ウォークには、毎回100名を超える参加者があり、ニーズの高さを証明することとなった。このスキームをおこなうにあたって、委員会が組織化され50人近い地元の関係者がボランティアで参加している。


 「歩く」がトレッキングに進化し、それがロングトレイルの整備に発展するには、さまざまな要素がある。中でも、高齢者社会の健康志向、自然環境への関心などの生活者のニーズと、トレイル周辺地域の観光活性化の狙いが合致しているのが、もっとも特徴的だと思う。
 八ヶ岳山麓のスキー場を抱える観光地域は、スキーの衰退とともに大きな打撃を受け、厳しい状況が続いている。これは八ヶ岳山麓に限らず、全国のスキー場がある地域の深刻な問題でもある。このような観光地の活性化には、ウィンターシーズンだけでなく、通年で入りこみ客を増やす必要がある。 だからロングトレイルの利用者が増えることで、宿泊者も増加するのではと期待されているのだ。現にロングトレイルの整備が進むにつれ、宿泊施設にもトレッキング目的の観光客や、トレッカーが訪れるようになってきている。このムーブメントを強固なものにするには、四季を通して魅力のあるトレイルの設定と、情報の提供が必要になる。


 この日私が歩いたのは、白樺湖から蓼科湖までのおよそ10km。時間にして6時間程度の距離だった。あいにくの曇り空だったが、紅葉の稜線からは、南アルプス、中央アルプス、御岳、乗鞍などの山々が遠望できた。暑くもなく寒くもなく、落ち葉のトレイルを、風景を楽しみながら歩くトレッキングは、まさに至福の時間だった。
 こんな八ヶ岳山麓スーパートレイルを、大勢の人たちに歩いてほしいと願う。200kmは一気に歩いても、こま切れでも、一生かかってもいいことになっている。主催者からは完歩の認定がおこなう仕組みが検討されている。バックパックを担いだ大勢の若者たちが歩けば、地域もこの国も、きっと元気になると信じている。
 
(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。