- 第264回 -  筆者 中村 達


『栂池自然園の風景』

 白馬山麓の栂池高原を歩いてきた。栂池の紅葉を見るのは5年ぶりだろうか。高速道路料金が1,000円になったので、随分気楽に遠出できるようになった。栂池の駐車場も満杯だった。栂池自然園へあがるゴンドラとロープウェーイもスキーシーズン以上に込みあっている風に見えた。
 途中1,500mあたりは紅葉が真っ盛りで、日本の紅葉は世界でも有数の美しさだとあらためて思った。しかし、1,800m以上になると先の台風18号で、ダケカンバなどの葉っぱは、全て吹っ飛んでしまい、白い幹だけが露出していた。それはそれで趣のある風景だった。

 台風が通過した後、3,000m級の山々の稜線部は初冠雪に覆われていた。それでも例年より10日ほど遅かったそうだ。
 栂池自然園は大勢の観光客、ハイカーそれにアマチュアカメラマンが訪れていた。自然園はコースの大部分に木道が敷かれているだが、それでも地道もあり、ウォーキングシューズやトレッキングシューズなどを履くにこしたことはない。それに山はすでに初冬で、結構寒い。この時季は、まだ寒さに体が慣れていないので、ことさら寒く感じる。それなりの防寒服も必要だ。
 アマチュアカメラマンは大半が元気な中高年だ。高級デジタル一眼に長玉をセットし、大きな三脚を持参している。かなり重そうだ。その割には足元が少し不安に見える人も多かった。

 展望湿原からは白馬三山と大雪渓のパノラマが広がっていた。狭い展望台は大勢の人たちで溢れかえっていた。ここまでは、ゆっくり歩いておよそ1時間半の距離だ。  数名の子どもたちに出会った。家族で来たらしい。白馬連山を指差して、「あの山の名前、知っている?」と声をかけた。子どもたちは首を横に振った。「目の前が白馬岳、左が杓子岳、雪が残っている谷が大雪渓」。

 街で声をかけるとアヤシイオヤジと警戒されるが、自然の中ではそうではなさそうだ。だから、山で子どもたちに出会うと、できるだけ声をかけて、山の名前や植物のことなどを話すようにしている。せっかく来たのだから、名前ぐらいは覚えてほしいと願う。
 子どもたちに説明していると、いつの間にか大人たちに囲まれていた。大人だったら少しは地図でも見てほしいと思うのだが、聞くほうがはるかに手っ取り早い。確かに。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。