- 第256回 -  筆者 中村 達


『山岳ツアーと登山ガイド』

 北海道のトムラウシ山で大量遭難事故があった。またも中高年の登山者が犠牲となった。大変残念なことである。この登山は旅行代理店が企画したツアー登山だった。
 この種の山岳旅行ツアーは、かつてはビジネスとしてはさほど注目されず、もっぱら山岳旅行専門の旅行代理店しか行っていなかった。しかし、今では全国の有名山岳などでは、大手の旅行代理店も参入している。
 今回の遭難でも指摘されているが、多くの旅行代理店が登山ツアーを行うようになって、競争は激化している。競争が激化するとどうしても価格競争になる。価格競争の結果、つまるところはガイドや添乗員などの人件費の削減になってくる場合もある。例えば、山岳ガイド協会の公認ガイドであれば規定料金は一般的にやや高めと言われ、ガイド付きツアー登山であっても、一部の旅行代理店を除いて、すべてのガイドが公認ガイドであることは少ないようだ。もっとも、今回の遭難のガイドがそれに当たるかどうかは、私は知らない。

   私も、何度かアルプスでこの種のツアー登山に同行したことがあった。ガイドたちは山を安全に案内するだけでなく、登山の指導をする責務のほか、ツアーリーダーも兼任することが多い。参加する登山客の経験度は千差万別だし、中にはその山に見合った体力がない参加者もいた。
 登山客は単に山へ登るだけでなく、様々なことをガイドたちに要求することもしばしばだ。私も同行していて、彼らが尋ねる質問に答えられなかったこともある。しかし、なんと言っても安全に登山をリードし、ガイドすることが最大の使命である。私も登山する参加者たちの様子を見て、冷や汗をかいたことが幾度となくあった。

 今回の遭難については、ガイドの責任や質が云々されているようだが、この国ではガイドの社会的地位がまだまだ確立されていないように思う。職業としての身分保障や待遇などは、ヨーロッパの山岳ガイドたちと比べてまだまだ遅れている。ガイドの質の向上が指摘されているが、同時に山岳ガイドの身分保障と社会的地位の向上のためには、国家的な支援も必要ではないかと思う。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。