- 第255回 -  筆者 中村 達


『国立公園を見直そう』

 梅雨の合間に浅間山麓の池の平湿原を歩いてきた。標高2000mの高原にある湿原は、数多くの野草で知られている。この日、まだ高山植物には少し早いのだが、イワカガミやコマクサは見ごろだった。コマクサは三方が峰の山頂あたりに群落があるのだが、盗掘防止のためにフェンスが張られている。そのフェンスを通して、薄ピンクのコマクサを見ることができた。

 山では随分マナーもよくなったといわれるが、このフェンスをみると、少々情けないものがある。この湿原には、大勢の子どもたちが学校の体験学習にやってくるが、このフェンスについて、どのような説明がされているのか気になるところだ。
 そして、何よりここが国立公園である、ということを自覚して、あるいは知っていて訪れる観光客はどの程度いるのだろう。

 先日、池袋のサンシャインシティで東京アウトドアズフェスティバルが開催され、併催事業として「国立公園を考える」シンポジウムがおこなわれた。環境省国立公園課の課長が、全国に29箇所あるすばらしい国立公園をもっと知ってほしいと語りかけた。パネリストの一人でネイチャーライターの加藤則芳氏は、日本の国立公園を管理するには人と予算が少なすぎる。そして、オーバーユースの問題と自然環境の保護のためには、入山制限や入山料の徴収も検討すべきだと提起した。

 いま、不況や新型インフルエンザの煽りをうけて、全国の観光地は疲弊しているといって過言ではない。そんな中で世界遺産が注目されている。ユネスコから世界遺産に認定されれば、爆発的な人気がでる。しかし、その地は国立公園であることがほとんどだ。国立公園であることは知らないが、世界遺産だとは知っている。そんな観光客が大勢いるのではないか。
 この国のすばらしいアウトドアフィールドは、国立公園にある場合が多い。日本アルプス、尾瀬、屋久島しかりである。観光やインバウンド、そして何よりも子どもたちの自然体験活動のために、いまいちど国立公園の意味と意義を確認することが必要だと思う。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。