- 第253回 -  筆者 中村 達


『ドライ素材のアンダーウェアのこと』

 梅雨が明けると、夏山登山のシーズンが始まる。映画「劔岳 点の記」も封切されて、この夏は、登山がちょっとしたブームになる予感もある。そんな風に思いたい。
 この時期よく尋ねられるのが、○○○○やスーパーなどの量販店で売られている、ドライ素材のアンダーウェアのことだ。アウトドアブランドとの違いや、その良し悪しについての質問である。
 ドライウェアとはポリエステルなどの化学繊維が素材として使われ、汗を吸収して外に発散するように、繊維の構造に工夫が凝らされているものをいう。汗が吸湿されるので、ベトづかず、サラッとした着心地が快適だ。特に山では汗で体温が奪われるので、ドライなアンダーは必需品といってもいい。このドライになる繊維構造をめぐって、繊維メーカーが大変な競争しているわけだ。

 正直なところ製品になると、その違いはあまりわからない、というのが私の実感だ。繊維メーカー各社が生産しているドライ素材は、どれも大変優秀で、極端に言えばデザインや縫製だけが違うだけ、ということになる。ただ、有名アウトドアメーカー品を着ていると、そのブランド力で、なんとなく良いような気分になる。そんな感じだ。
 また、少し前までは量販店ものには、アウトドアで使われることを想定していたかどうかは分からず、例えば背中に縫い目があったりして、リュックを担ぐと違和感があった。それもいまは改善されているようだ。正直なところブランドのタッグをとれば、どこの製品か、私には見分けがつかない。

 結局、3,000円のアンダーを3年着るか、1,000円のものを毎年買い換えるか、二者択一に行き着くように思う。私は両方の製品を使い分けている。日帰りや1泊程度の登山やトレッキングでは、1,000円程度の量販店モノ。長期の山行きでは3,000円程度のアウトドアブランドモノ。その理由は、なんとなくで、実のところさしたるものはない。

 かつて学校の山岳部時代は、このような優れた製品はなく、夏は「網シャツ」というのがアンダーの定番だった。網目でできたシャツのことで、汗は上着に直接抜けるのだが、綿素材の網に汗が溜まって、決して着心地のいいものではなかった。それにリュックの重みで、背中に亀の甲羅のような模様ができた。そんな時代を思い起こすと、3,000円のモノでも、1,000円のモノでもまるで夢のような進歩である。
 パンツはどうだったか?少なくとも夏は綿だったと思う。汗をいっぱいかいて、何日も着替えずに山にいた。ずいぶん汚くて、さぞ臭ったことだと思う。だが、何十人もの仲間たちも同じ状態だったので、テントの中でも臭いは感じなかった。

 優れた素材の出現で、アウトドアでも快適に過ごせるようになった。しかし、山に向かう若者たちが、科学技術の発達に反比例するかのように、減少しているのはなんとも皮肉なことである。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。