- 第246回 -  筆者 中村 達


『春の山スキーへ』

 今シーズンは寸暇を見つけて、例年より少しは多くスキーをすることができた。出張先での日程をやりくりして、何とか滑走日数を稼ぐことができた。この先、あと数日は滑りたいと思っている。毎年のことだが、今年もGWに立山に行くつもりでいる。いわゆる山岳スキーだ。バックカントリースキーともいわれている。
 それはどちらでもいいことがだが、不振に陥っている多くのスキーショップでもバックカントリー用のスキーを置いているところが増えた。先日もスキーショップに顔を出すと、いわゆる山屋のオジサンたちが、入れ替わり立ち代り用具類を物色に来店してきた。
 ショップの店長に聞くと、山岳スキーの売れ行きは好調だそうだ。いわば静かなブームだという。いま、日本のスキー愛好家は都市近郊の富裕層と、競技志向の若者たちとにほぼ絞られてきている。今シーズンは金融不況の煽りで、この傾向がいっそう深化したようだが、山スキーはそこそこいい線をいっているらしい。また、ゲレンデスキーヤーとは少々参加層が違っているように思う。

 山岳スキー用具の発展はめざましく、ビンディングはセフティ機能も高く、スキー板もカービングスキーに変わった。ブーツの進化はさらにすごく、歩行時は歩きやすくなっていて、滑走時はスキーブーツとほぼ同じ機能を発揮する。ただ、価格が高いのが難点だ。ブーツで5万円以上。スキーもやはり5万円以上だ。ビンディングは最低でも3万円以上はする。しめて10数万円は必要だ。もちろん、スキー以外にも登山に必要な装備は、ひと通りは揃えなければならない。できればビーコン(※)もほしい。
 安全を考えると、山スキーの用具は良質のものを揃えておく必要がある。ツアー中に用具に不具合が発生すれば、大変な事態になる。だから予算はケチってはいけない。
 さらに、山岳スキーの場合は登山、なかでも冬山登山の経験が必要だ。でなければプロのガイドを頼む必要がある。だから、どうしても現在の山岳スキー愛好家は、中高年の山屋が多いのだ。

 今ではすっかり忘れられてしまいがちなツアーコースは国内にも数多くある。山岳スキーは、ゲレンデは味わえない豪快な滑りができ、誰も滑っていない斜面を自由に滑り降りる爽快さは言葉では表現できない。
 ただ、このすばらしい世界に若者たちを引き込むのはかなり難しい作業だ。山離れ、スキー離れが進んでいる若い人たちが、いきなり山岳スキーというのは考えにくい。だが、このままでは早晩山岳スキーは、廃れていくのではと危惧している。私たちのような中高年山岳スキーヤーがリタイヤすれば、後に続くものは非常に少なくなってしまうだろう。
 山岳スキーの普及とオフピステへのいざないには、買えば高い用具のレンタルやツアー情報の充実も必要だろう。だが、なんと言っても根本は、自然体験の機会をつくり、登山を好きになる若者たちを増やし、雪山もスキーも経験させるといった長いスパンの構想を練ることが重要だと思う。これはすべてのアウトドアアクティビティに通じる。

 今年は雪不足で立山も黒部湖までは滑れそうもないと、知人の山岳ガイドが教えてくれた。沢の下部ではスノーブリッジが崩壊することが予想され、通過が困難になる可能性が高いという。いま、どの尾根を、どのルートを滑ろうかと思案中だ。そんなあれこれを考えるのも山岳スキーの楽しみのひとつである。

※電波の発信で雪崩などによる埋没者を発見する機器 

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。