![]() ![]() ![]() - 第245回 - 筆者 中村 達
『新入社員研修会とアウトドアズ』 ある大手企業の新入社員研修会でお話しする機会があった。会場はまだたっぷり雪があるスキー場のホテルだった。この日、山は時季はずれの思わぬ降雪に見舞われた。吹雪で新雪が30cmも積もった。 与えられた講演のテーマは「自然・環境と企業のCSRについて」だった。およそ50名のピッカピッカの新入社員は、希望とちょっと不安、それに、なによりもエネルギーが満ち溢れていた。そのエネルギーを私も受けたようで、いつになく熱が入った。 ![]() 7割ほどの手があがった。「学校の修学旅行での経験?」とたずねると、彼らの多くがうなずいた。 次に、「トレッキングシューズか、登山靴のようなものを持っている人?」。誰も手をあげない。そこで、もう一度「本当に誰も持ってないの?」と確認すると、後ろの方で一人が遠慮がちに手をあげた。50人中1人。つまり、トレッキングシューズの所有率は2%ということになる。 もちろんこの母集団をもって普遍化はできないが、なんとなく傾向はわかる。ちなみに1970年におけるこの世代の所有物の調査(旧経済企画庁)では、登山靴は26%だった。 そこで試しに、アウトドアブランドの認知度をたずねた。「ノースフェイス!知っている人?」。およそ6割が手をあげた。「パタゴニア」も、ほぼ同じ程度。「コロンビア」は少し多めで7割ほどだったろうか。 結局、トレッキングシューズなどアウトドアアクティビティためのギアは持っていないが、ファッションとしてのアウトドアブランドはよく知っている、あるいは、持っているということなのだ。アウトドアブランドはいまや本来の目的から離れて、タウンカジュアルに需要がシフトしてしまった、と証明されたようだ。 ![]() 余談だが、TVで先のノーベル賞を受賞した先生たちが、出演されていた番組の最後に「ノーベル賞を受賞するために最も大切なことは?」とたずねられ、「自然です」と確信をもって答えられていた。とても印象的だった。 この後、スノーシューイングのプログラムが組まれていた。彼らにとっては大半が、はじめての経験だ。研修生たちは自然学校のインタープリターにガイドされ、新雪が積もった森の中を歩きはじめた。強い風が吹くなか、慣れない足取りで雪の上を進んで行った。時折あがる歓声と、嬉々とした表情がすべてをあらわしているような気がした。 (次回へつづく)
■バックナンバー ■筆者紹介 中村 達(なかむら とおる) 1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。 NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。 生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。 |