- 第244回 -  筆者 中村 達


『春の里山を歩く』

 3連休の中日、天気がいいので近くの里山を歩きに出かけた。寒いと山を歩くのは億劫になりがちだが、ポカポカ陽気になると、不思議とその気になってくるものだ。滋賀県のトカイナカの周辺には、眺望がすこぶるいい低山が数多くある。車で30分も走れば、歴史的にも名高い丘陵がたくさんある。 
 この日は、西国三十二番札所となっている観音正寺(http://www.kannon.or.jp/)のある繖山(433m きぬがさやま)を登り、聖徳太子ゆかりの石馬寺(http://www.ishibaji.or.jp/)まで歩くことにした。リュックサックにパーカーと雨具、それにコンロやケトルを入れ、途中のコンビニで昼食のおにぎり数個とカップヌードルを買った。これでこのコースは問題ない。

 山麓の公園から歩きはじめた。連休だというのに誰もいない。サクラの便りも聞かれるがこのあたりはまだ早いようで、木々の新芽もまだ出揃ってはいなかった。トレイルは秋の楓やナラの落ち葉が残ったままである。それでも、ショウジョバカマが陽光の中でピンクの花を咲かせていた。登るにつれ、近江の山々が見えてきた。伊吹山や霊仙山が春霞のなかで遠望できる。
 歩きははじめて一汗かくと、観音正寺に着いた。さすがに有名な寺院だけに参拝者も見受けられたが、この時期にしては少ないようだ。観音正寺には車で上れるルートもある。
 参拝の後、さらに少し登り梅の花が満開の観音寺城跡で昼食をとった。城跡の広場では数組のハイカーが同じように昼食を摂っていた。最近は、中高年に混じって少し若目の人たちも歩き始めたように思う。若いカップルや20歳代と思しき人たちにも出会うことが増えてきた。

 昼食を摂って、歩き始めて30分で最高地点の繖山に着いた。眼下にはびわ湖が広がり、対岸の比良山系や若狭につながる北の山々が遠望できた。さらに、足元には西の湖と近江平野が、その先にはびわ湖の北部に福井の山々が幾重にも続いていた。絶景である。足で歩かないと、この風景には出会わない。

 地形を俯瞰することは大切なことだと思う。戦国時代、この地は天下を治めるための要害であった、という歴史観を肌で感じることができるし、何により土地の成り立ちがよく理解できる。武将たちがどんな思いで、この地に足を踏み入れたのか。同じ風景を見ていたのだろうか、などなど夢想は果てしない。

 里山を歩く楽しみはこんなところにもある。世の中は不景気で、政治も混迷して暗い気持ちになりがちだが、地形を俯瞰するとこの国のすばらしさが見えてくる。愛国心などというのも、地勢を俯瞰するだけで芽生えてくるような気がする。
 終着点の石馬寺の境内を歩いていると、麓の集落の人であろうか「ありがとうございました」と、私たちに声をかけていただいた。気持ちのいい里山歩きだった。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。